2021年4月の記事一覧
思わず、深呼吸 ~ 体育大会全体練習
熊本西高校の遠景は、金峰山の山並みの麓に抱かれているように見えます。青葉萌え、山々の新緑がまぶしい季節を迎えました。有明海からの風が吹き抜ける広々とした西高運動場へ出ると、思わず、マスクを少しの間はずし、金峰山に向かって深呼吸したくなります。コロナ第4波の憂いを忘れられるひとときです。
5月8日(土)の体育大会実施に向け、今週は連日、運動場で全体練習が行われています。生徒たちはマスクを着用し、距離をとり、西高体操、行進、開会式、そして3団(黄・赤・青)に分かれての応援練習などが続きます。広い運動場に全校生徒が集い、全体で動く様子は活気あふれ、壮観です。西高生830人が「ここに、共に、在る」ということが学校の一体感を醸成するうえでとても大切だと思います。1年生はこの全体練習を通じ、「西高生」になると言えるのでしょう。一方、2、3年生は上級生としての意識が高まるのでしょう。
昨年度は、コロナパンデミックの影響で体育大会を中止しました。もし、今年度、体育大会を実施しなければ、来年度は体育大会を知っている生徒はいなくなります。西高の体育大会の伝統をつなぐためにも今年の体育大会開催は重要な意義があるのです。
全体練習の中で、私が引きつけられたのは、西高体操です。創立以来行われている独自のもので、一つ一つの動作に力強さと姿勢の美しさがあり、指導される体育科の先生の息が上がるほどです。「体操」と言うより「演武」と呼びたくなります。全体練習を見ていて、「西高体育スピリット」というものが具体的に伝わってきました。西高には高校スポーツ界で知られた体育コースがあり、各競技で活躍する高校生アスリートたちがいます。しかし、そのような運動能力に秀でた生徒だけでなく、西高生全員にこのスピリットは求められています。日々の体育授業の集大成である体育大会を全員で創り上げていく過程で、気持ちを一つにした行動、挨拶などが備わっていくようです。
西高の体育大会ならではのユニークなものとして、聖火入場・点火のセレモニーがあります。事前にグラウンドで太陽から採火し、代表の生徒が開会式において聖火トーチを掲げて走って入場し、運動場南側の特設の聖火台で点火するものです。生徒の気持ちに火を付けることになるでしょう。
西高体育大会を多くの方にご覧いただきたいのですが、コロナウイルス感染防止の観点から、開放せず無観客で実施することとしました。苦渋の判断です。保護者の皆様、どうかご理解いただきたいと思います。生徒たちの達成感、充足感を最大の目標(ゴール)として、体育大会実施に努めていきます。
「流行感冒」とコロナパンデミック
志賀直哉の「流行感冒」という短編小説を読みました。大正8年(1919年)発表の作品で、「りゅうこうかんぼう」と読みます。当時、我が国で爆発的に感染が広まった強力なインフルエンザのことを指します。この小説を読む契機は、同作品がドラマ化され4月10日(土)にNHKBSで放映されたことでした。学校の図書室に行き、原作が収録されている「志賀直哉全集第三巻」(岩波書店、昭和38年刊)を司書の先生に書庫から探してもらいました。ドラマと原作の小説ではあらすじが異なる部分はありましたが、作者自身と思われる主人公の心理の揺れがテーマであることは同じでした。
東京近郊の村に住む小説家の主人公の家族のもとに、流行感冒(インフルエンザ)が蔓延してきます。最初の子どもを病気で亡くしている主人公は娘の健康についてひどく神経質となり、些細なことでも他者に対し疑心暗鬼となります。結局、自分自身が感染し、家族も罹患します。幸い、周囲の支援があって回復に至り、人間不信からも脱却できることになります。主人公の心理的動揺は、目に見えない感染症流行の怖さを象徴していると言えます。
この「流行感冒」は当時「スペイン風邪」と呼ばれ、世界的流行(パンデミック)となりました。1918年、第1次世界大戦の主戦場のヨーロッパで各国の軍隊の移動に伴い兵士を介して感染が拡大し、パンデミックが始まりました。日本にも飛び火し、熊本でも多くの学校で臨時休校の措置が取られています。「スペイン風邪」では全世界で4000万人の犠牲者が出たと推定されます。わが国でも38万人が亡くなったとの記録が残ります。有効な抗生物質やワクチンもなかったことに加え、第1次大戦中で各国が情報統制を敷き、対応が遅れたことで驚くほどの犠牲が生じたことになります。
人類は1世紀前にパンデミックの苦難を経験していたのです。問題は、この「スペイン風邪」パンデミックの記憶が後世になぜ伝わらなかったのかということです。今回の新型コロナパンデミックであらためて注目され、初めて知ったという人が多いのではないでしょうか?
「不都合な事実」を私たちは見ない、避ける、忘れる傾向にあります。近代に起こった「スペイン風邪」の惨状のことを私たちはよく知りませんでした。記録は残っていても、どうして後世に伝わらなかったのか不思議と言わざるをえません。大正時代の文学でも、志賀直哉の「流行感冒」以外にスペイン風邪を題材にしたものはほとんどないと言われます。
今回のコロナパンデミックを次の世代にどのように伝え、考えさせていくかは学校教育の役割だと思います。このことは現在を生きる者の次代への責務だと思うのです。
西高探訪 ~ 物語のある風景
「西高ができたときは、城山(じょうざん)校区に高校ができる!ということで地元の者はみな大喜びしたものでしたよ。」
熊本西高校に赴任し、まもなく一月となります。学校所在の熊本市西区城山地区を巡っていると、地元の方から西高開校の時の思い出を語ってくださる方と幾人も出会います。本校も創立47年目を迎えます。およそ半世紀の間、地元の皆さんに親しまれ、応援されてきたことを実感します。
地域探訪については次回に譲るとして、今回は校舎探訪です。最もユニークな場所が「生徒ホール」及び「テラス」です。以前、西高に出張で来たときに強く印象に残りました。第3普通教室棟(3学年)から第2普通教室棟(2学年)への廊下の東側にあり、2階まで吹き抜けの空間で、売店も隣接し生徒たちの憩いの場となっています。大型の美術作品が展示されるなどギャラリー機能も備え、多目的に使えます。ガラス窓を隔ててテラスがあり、瀟洒な白いテーブルと椅子が置かれています。先般ここで、吹奏楽部が新入生歓迎のミニコンサートを昼休みに開いてくれました。
教室棟を南北につなぐ廊下が西高の幹線と言えます。一方、それと平行して体育館から家庭科教室、礼法室、図書室、芸術棟と結ぶ廊下があり、こちらは趣のある情景が連なります。黒竹(くろちく)と思われる細い竹に覆われた礼法室は和の学びの場です。先週木曜日の放課後、茶道部のお稽古に招かれ、お抹茶をいただきました。百人一首部も活動の拠点としています。図書室は木の温かみが感じられ、青い木枠の窓は時代を感じさせます。昭和の高校時代の記憶を伝えます。
そして、美術棟は、音楽室、美術室、書道室の三つの平屋が三菱のマークの如く結ばれており、この構造も他の県内の高校に類を見ません。先日、美術部と書道部の活動を見に行きましたが、双方の部員が行き来し交流していました。
校庭を歩くと、ヤマモモの木が目につきます。図書室や美術棟、そしてテラスのまわりを樹木群が囲み、しっとりとした庭園となっています。また、正門から西門にかけての樹木群の中には楠の老木もあり、恐らく西高開校前からこの地にあったものでしょう。校舎内や校庭を歩くと、開校以来、50年近くの時が流れたことを感じると共に、幾多の若人の物語を想像したくなります。
西高は広大なグラウンドや充実した体育施設に目を奪われがちですが、このように生徒たちが憩い、豊かな学校文化を醸す場がいくつもあることを多くの人に知って欲しいと思います。
保護者の皆様へ ~ 育西会総会
熊本西高の保護者会を「育西会」と呼びます。育成という言葉に西高の西の字を重ね合わせたネーミングです。令和3年度熊本西高「育西会」定期総会が4月23日(金)の午後に開催されました。昨年度はコロナパンデミックの影響で総会は書面評決で代替されており、2年ぶりの実施と言えます。コロナ禍の平日開催にも関わらず、御来校くださった保護者の皆様には深く感謝申し上げます。
感染症対策の観点から、会の開催方式に工夫を凝らしました。一般の保護者の方はそれぞれの教室に入り、役員の方だけが会議室に集い議事が進行されます。その議事進行の場景が各教室にオンラインでつながれスクリーンで映されるのです。先般、生徒会主催の生徒集会もこの方式でスムーズに行われました。ICT(情報通信技術)の活用実践です。できない理由をあげるのは簡単です。できる方法を考えることが求められていると思います。「育西会」総会が1時間ほどで終了し、引き続き学校側から教務部、進路指導部、生徒指導部等から説明を行いました。その後、各学級懇談と移りました。
子どもにとって、親は絶対的な存在で、親の愛情に勝るものはありません。しかしながら、親からだけでなく、他者から可能性を見出してもらうことが大きな成長につながります。身近に信頼できる大人がいることが必要なのです。私たち教師の存在意義はそこにあると思います。
今年度、全校生徒1人1台タブレット端末の配備が実現しました。1、2年生は大型連休明けから本格的に活用を始めます。また、3年生は2学期に手元に届きますので、進路実現に役立てて欲しいと思います。無限の可能性を持つ学習道具を生徒たちは手にします。ICTの力を取り込みながら、生徒との対話、コミュニケーションも大切にしていきます。「生徒を大きく伸ばす西高」をモットーに職員一丸となって全力を尽くす所存です。
お子様のことで何か気になることがありましたら、遠慮なく担任や学年主任、部活動顧問等に御相談いただきたいと思います。ご家庭は、やはり生徒諸君にとって寛げる居場所であってほしいと思います。不満や愚痴、弱音を聞いてあげてください。悩みやストレスを自分一人で抱え込まずに、友人、家族、専門家に援助を求める力こそ、現代に生きる私たちには必要だと云われます。私たち教職員も、生徒の変化を見逃さないよう注意し、「気付き、寄り添い、つなぐ」の姿勢で、ご家庭と密接に連携を取っていきたいと思います。
保護者の皆様の願いと学校が目指すものは同じだと思っております。保護者会と学校は車の両輪のよう一体となり、この一年進んでいきたいと思います。
「eスポーツ」を知っていますか?
「どうして学校でコンピュータゲームをして遊んでいるんだろう?」と知らない人が見れば首をかしげる光景かも知れません。熊本西高のコンピュータ室で、放課後、生徒たちが声を掛け合いながらディスプレイ画面を注視し、コンピュータを巧みに操作し、ゲームに取り組んでいます。これはれっきとした部活動で、西高「eスポーツ部」なのです。
「eスポーツ」については、保護者の方々をはじめ私のような中・高年世代にはまだ馴染みがないと思います。エレクトリック(electronic)スポーツの略語で、ビデオゲームを用いての対戦競技をスポーツ領域と捉え、近年、若い世代を中心に世界で普及しています。すでに企業スポンサーが応援し、世界大会が開かれ、プロ競技者も現れています。そして、我が国でも全国高校eスポーツ選手権大会が実施されるなど学校の部活動に広がり始めました。
熊本西高校では県立学校の中では先駆けて、令和元年度に「eスポーツ部」を発足させました。今、専用のパソコンが5台あり、県内の企業、事業所から活動の支援をいただいています。誕生して3年目の部ですが、今春入学した1年生が30人ほど入部し、活動場所のコンピュータ室では手狭な状態で、うれしい悲鳴をあげていると聞き、先日、様子を見に行きました。
「eスポーツ」について全くの素人の私に対し、3年生諸君が丁寧に説明をしてくれました。初めて聞く用語が多く、十分に理解出来たわけではありませんが、次の三つのことは確認できたと思います。
最も競技人口が多いLOL(リーグオブレジェンド)をはじめ5人組、3人組でチームをつくり対戦する競技であること。仲間と一緒にプレイをするわけだから、コミュニケーション、チームワークが必要であること。西高「eスポーツ部」の特色は他校に比べ女子生徒も多く、とてもフレンドリーな雰囲気であること。
「自分たちで教え合い、上達しているようです」と顧問の有馬先生(情報科)が言われるとおり、上級生が競技している周囲に1年生が集まり、見て学んでいる様子が印象的でした。「eスポーツ部があるということが、僕が西高を選んだ理由の一つです」と1年生のサイエンス情報科の男子生徒が語ってくれました。
生徒たちの居場所と出番があることが学校には必要です。他の部活動と同じように、好きなことに熱中できる拠り所が「eスポーツ」であってもいいと思います。学校教育の場に囲碁部、将棋部が導入されたのがいつ頃かはっきりはわかりませんが、今の「eスポーツ」の到来と同じような受け止め方だったかもしれないと想像します。
これから西高「eスポーツ部」を大きく育てていく責任が私たちにはあります。