校長室からの風

水の恩恵 ~ 1学期終業式

 今日は、涼しい話題をと思い、「水」をテーマに選びました。

 生命は水の中で生まれたと言われます。年齢で少し差はあるようですが、人間の体は平均して約70%が水でできています。水なしでは生きられません。断食や僧侶の修行でも水だけは摂取して良いとなっているのはそのためです。

 さて、ワクチン接種は進んでいますが、この夏も、マスクの着用、こまめに手洗いとうがい、そして部屋の換気といった基本的なコロナ対策に取り組まなければなりません。私たち日本人にとって手洗いやうがいは子どもの頃から当たり前の行動で、習慣化しています。

 しかし、世界にはこれが簡単にできない国、地域が多く存在します。国連のデータによると、不衛生な水の生活環境で暮らす人が45憶人もいるとのことです。世界の人口が78億人ですから、6割近い数字となります。21世紀の最大の資源問題は水不足だと言われています。20世紀後半からの急激な人口増加に水の供給量が追いついていないのです。水は日々の暮らしだけでなく、農業や工業でも重要です。水は、健康、環境、経済と多くの社会要因と密接に関わっています。水不足が解決されなければ持続可能な社会は成り立ちません。

 このような世界の水問題事情から考えると、日常、飲料水で手洗いやうがいが存分にできる私たちはなんと恵まれているのでしょうか。この水の恩恵は、わが国の自然環境だけでなく、井戸を掘り、山に水源の涵養林を植え、上水道を整備してきた先人たちのお蔭にほかなりません。近年はシャワーや洗車など日本人の生活上の水の無駄遣いが問題になっています。あらためて、限りある水に対して、私たちは謙虚な気持ちになりたいと思います。

 生徒の皆さん、この夏、手をこまめに洗いましょう。手を洗うことは涼しく気持ちよい行為です。一日に幾度も洗いましょう。そして水を飲みましょう。熊本市では蛇口をひねれば天然のミネラルウォーターが出てきます。阿蘇に降った雨が20年かけて地下水として磨かれ、安全で安心な水道水となります。体育系部活動の皆さんは、熱中症予防のためにもこまめに水を飲みましょう。

 西高から3㎞しか離れていないアクアドームで、今、ドイツのオリンピック水泳チームが直前合宿をしています。残念ながら、練習は非公開ですが、東京オリンピック開幕が近づいたことを実感します。コロナパンデミックの中、どんなオリンピックになるか世界も注目しています。東京オリンピック・パラリンピックが無事に開催できることを皆さんと共に願いたいと思います。

 明日から夏季休業です。2021年(令和3年)の夏は人生で一回きりです。皆さんが自分の成長のために、一日いちにちを大切に過ごすことを期待し、1学期終業式の講話を終えます。

「生まれてきてくれて 有り難う」 ~ 性教育講演会

 西高と同じ熊本市西区の島崎町に慈恵(じけい)病院というキリスト教精神を母体に設立された病院があります。産婦人科、内科、小児科などがある総合病院ですが、「こうのとりのゆりかご」という取り組みで全国に知られています。出産しても、様々な事情で自分では育てられず追いつめられた親が、匿名で赤ちゃんを預けることができる場所が慈恵病院にはあります。何よりも、一人では生きていけない新生児、赤ちゃんの命を救うため、緊急避難場所としての受入れを慈恵病院は15年近く続けておられます。このような実践は我が国では熊本の慈恵病院だけが行われており、心から敬意を表します。

 慈恵病院で看護部長をお務めの竹部智子様に講師をお願いし、7月15日(木)、西高生1,2年対象の「性教育講演会」を実施しました。慈恵病院にいらっしゃる竹部看護部長と、西高をオンラインで結び、リモート形式で行いました。

 演題は「未来ある皆さんに伝えたいこと ~ 産婦人科の現場から」です。

 最初に、今週、慈恵病院で出産、誕生のお母さんと赤ちゃんが登場されました。赤ちゃんが生まれたときに陣痛の痛みも吹き飛び、お母さんは、赤ちゃんに「生まれてきてくれて、有り難う」と語りかけられたそうです。この言葉は、竹部看護部長の講演の中で随所にリフレインのように出てきました。

 「赤ちゃんは皆、待ち望まれて生まれてきたもの」であるにもかかわらず、なぜ育児放棄、虐待などの問題が起きるのか。それは決して母親一人の責任に帰すべきではないと言われます。相手があって子どもは生まれるものであり、経済面を含めた環境の問題など、母親一人では解決できないことが多いのです。従って、「こうのとりのゆりかご」という場所を設けると共に、慈恵病院では、育てられないと苦悩する親の相談体制整備に力を入れてきたと言われました。

 「こうのとりのゆりかご」の様子が実況で中継されました。特別な門から入り、小道を30mほど歩き、赤ちゃんを預ける扉があります。その扉を開けると保育器とお母さんへのメッセージが用意されています。赤ちゃんを預け、扉を閉めると二度と扉は開かない仕組みになっているそうです。夜、扉の前にたたずむ女性の姿を竹部看護部長さんも目撃されたそうです。

 思春期の男女がお互いを好きになるのは自然なこと、けれども男性と女性では気持ちの表し方や性への感覚が異なっていることをお互い認めあうことが大切だと語られ、改めて生徒たちに対しメッセージを伝えられました。

 「女子の皆さん、もし今、妊娠したら、育てられますか?」

 「男子の皆さん、もし今、妊娠させたら、育てられますか?」

 かけがえのない命と性に関わる産婦人科の現場で、患者さんの一番近くに寄り添ってこられた竹部看護部長の言葉は、優しいものですが、重みのあるものです。心揺さぶられるお話しでした。

全国の舞台へ ~ 全国高校総体(インターハイ)、全国高校総合文化祭

 7月13日(火)に熊本県は梅雨明けし、一気に入道雲が湧き、強烈な日差しが降り注ぎ始めた気がします。盛夏到来。この夏、2年ぶりに全国高校総体(インターハイ)が北信越地域で、全国高校総合文化祭が和歌山県で開催されます。この高校生のスポーツ及び文化の祭典に、西高からは柔道(女子)、なぎなた(女子)、陸上競技、ウェイトリフティング、競技かるた、美術の6つの部活動、合わせて22人の生徒の皆さんが出場します。創立以来「文武両道」の実践を掲げる西高の面目躍如たるものがあります。

 西高の同窓会「西峰会」主催の全国大会出場激励会が7月14(火)放課後に本校で行われました。藤井会長が「皆さんの活躍は同窓生の誇りです」と挨拶され、6つの部の代表に激励金を渡され、励ましの言葉を贈られました。

 女子柔道部主将の大野さんは、「日本一を目指して日々練習してきたので、その目標に向かって頑張ります」と言いました。

 なぎなた部主将の内田さんは「私たちも日本一が目標です」と言いました。

 陸上部主将の荒野君(400mハードル)は「出場する4人でベストを尽くします」と言いました。

 ウェイトリフティング部から1人出場する内田君(102㎏級)は、「表彰台を目指します」と言いました。

 熊本県チームの一員に選ばれた競技かるた部部長の児藤さんは「県代表として頑張ります」と言いました。

 作品が県代表として出品される美術部の久保さんは「高いレベルの作品に接し、他県の生徒と交流してきます」と言いました。

 決意を述べる生徒の皆さんの表情は意志的で、高い目標を見据えているようでした。「自分たちはやればできる」という、ゆるぎない自己肯定感が拠り所になっているに見え、頼もしく思いました。

 この1年半あまり、未曾有のコロナパンデミックによって私たちの生活は大きな影響を受けました。部活動も様々な制約を受け、思うような活動ができなかったと思います。目標を見失いかけたこともあったでしょう。それでも、自己管理に努め、たゆまぬ努力を続けてきたことが全国大会出場につながったと思います。逆境の中でも、生活の軸がぶれず、自らの本分を貫いた姿勢を心から称えたいと思います。

 いよいよ全国の舞台が待っています。大きな舞台は若者をさらに大きく成長させます。全国大会に出場する皆さんが、全国各地から参加する志ある高校生と競い合い、交流し、ひとまわりふたまわり大きく成長して、笑顔で帰ってきてくれることを期待しています。

進化する授業 ~ ICTで広がる授業の可能性

 西高は、今年度、1人1台タブレット端末の先行実践校(18校)に採択され、校内のネットワーク環境が整備されました。そして、授業はじめ生徒の学習場面での積極的なタブレット活用、すべての保護者にアカウントを付与し学校とのペーパーレスのデジタルコミュニケーション促進、また生徒会選挙のオンライン化などに取り組んできたところです。その実践が評価され、7月1日には、ICT特定推進校(県内6校)に選ばれました。

 西高の授業は、ICT(情報通信技術)を進んで取り入れ、変化しています。最近、私が実際に参加した具体的ケースを二つ紹介します。

 7月8日(木)4限目、2年4組(普通科)での「英語」の授業。英語によるディベートが行われました。論題は「日本の大学の授業料無償化をすべき」(University education should be free in Japan)で、このことに対し、肯定、否定の立場に分かれ、ディベートを行いました。英語でディベートに挑戦することは、相当の語彙力がなければ難しく、以前は容易にできませんでした。しかし、生徒達は1人1台タブレット端末を所持しています。即座にGoogle翻訳機能を利用し、表現したい日本語を入力し、瞬時に英語翻訳します。そしてそれをスピーチします。問題は、発音です。知らない単語が多く、たどたどしい発音になりますが、ディベートでは「発音より内容」です。ぎこちなくても伝えたいという気持ちがコミュニケーションの基本だと思います。クラスが3グループに分かれ、ディベートが展開される光景を見ていると、ICT効果を実感しました。

 また、翌日(金)1限目、2年1組(サイエンス情報科)の「科学情報」の授業。崇城大学の星合(ほしあい)教授と本校をオンラインで結び、リモート形式でプログラミング言語「Python」(パイソン)の入門講義が行われました。音声も画像もとてもクリアな状態で、星合先生のわかりやすく丁寧な解説に生徒達の学習理解も進みました。これからの社会では、どんな分野へ進んでもプログラミング言語の学習は必要だと星合先生は言われます。社会の情報化が進む中、その基盤であるプログラミングを学ぶことは重要であり、論理的思考力を鍛え、情報社会の仕組みを理解することにも役に立つと思われます。これまで別の分野と思われていたものを結びつけ、新しい価値を生み出すイノベーションの力の基本にプログラミング的思考力が不可欠と星合先生は力説されます。

 学校教育は未来の社会の担い手を育成するものです。急速な社会の変革の中にあっても、主体的に社会をより良く変えていける人材を育てていきたいと思います。西高の授業はますます進化していきます。ご期待ください。

               英語のディベート授業

               科学情報の遠隔授業

対話への期待 ~ 生徒会と育西会(保護者会)との第1回ミーティング

 「生徒会の皆さんと、こうして話をすることで交流、親睦になればと願っていました。」と育西会の池田会長が冒頭に挨拶されました。こうして、7月8日(木)放課後、会議室にて、生徒会長はじめ生徒会役員の女子生徒5人と保護者代表である育西会の6人の役員さんとのミーティングが始まりました。生徒会顧問の吉田教諭と校長の私は傍聴人の立場で参加しました。

 事前に保護者側からテーマをいくつか提示してあり、生徒会でも話し合いをして臨んでおり、活発な意見交換が行われました。最初のテーマの「制服」については、生徒側から特に積極的に意見が出ました。西高の女子の夏のブラウスは、汗をかくと生地が肌にはりつき、通気性が弱く、男子が着用しているポロシャツの導入を要望するものでした。保護者(母親)からも、ブラウスはアイロンが必用で手間がかかるので、女子のポロシャツ導入に賛成の声が相次ぎました。また、保護者からは、女子のスラックスも導入し、スカートとの選択制にしたらとの意見も出て、生徒達からも賛成の声があがりました。

 また、西高生の約8割が自転車通学生であり、雨の日にはカッパを着用しても制服が濡れるため、始業前に更衣室を開放してもらえないかとの要望が生徒会から出されました。そして、公共交通機関の充実を求める声が双方からあがり、JR西熊本駅からの路線バスがないことの不便さが指摘されました。

 さらには保護者から、西高周辺には街灯が少ないようだが、冬の帰宅時間帯に不安はないかとのお尋ねがありましたが、生徒達からは「だいたい複数で帰るので、特に不安はない」との返答でした。

 生徒と保護者の対話を聴いていて、あらためて気づかされることが数多くありました。学校生活を送る中でこんな点で困っているという生徒の切実な気持ちを重く受け止めました。また、子どもたちに安心、安全な高校生活を送って欲しいという保護者の思いの深さも痛感しました。そして、何より、自分たちで話し合ったことを述べ、自分たちの学校をより良くしたいという生徒会の生徒の姿勢を頼もしく思いました。高校生は、身近な大人(保護者、教職員)を通じて、第三者の世界、即ち社会を見ているのです。若い世代にこそ、現実を変える力があると言えます。

 学校の主人公は生徒です。その生徒を支える立場として、教職員と保護者の存在があります。それぞれ役割は異なりますが、学校をより良くしたいという気持ちでは対等だと思います。

 保護者代表の皆さんと生徒会役員とで、対等に真剣に話し合いが行われました。このような対話の積み重ねこそが、西高発展の基礎になると思います。