「赤橋」よもやま話

「赤橋」よもやま話

 本校のすぐ横の瀬戸海峡*1に架かるこの橋(写真1)は、瀬戸歩道橋といい、天草市役所土木課が管理する全長124.8m*2、鋼トラス式の歩行者専用道路(バイクは押して通行可)です。橋全体が朱色に塗られていることから、通称「赤橋」と呼ばれています。朝夕は通勤、通学の人達がひっきりなしに通り、昼間も買い物等で利用する人たちが結構います。生活に密着した橋として市民から愛されていますが、優美なその姿は訪れる観光客の目も楽しませています(「武骨」と評する人もいるようですが・・・)。

 この橋(正確には前世代の橋:写真8)は、校歌(校歌はこちら)2番の中で「虹の開閉橋(はし)」と謳われたり、5階建ての実習棟が建造されるまで(平成8年以前)は、写真2のように、教室から眺めることができたりするなど、天工生にとっても大変身近なものになっています。現在、生徒の約6人に1人に当たる100名弱が徒歩、自転車、バイクで毎日この橋を渡って通学しています。


 「開閉橋」とあるように、この橋は昇開式の可動橋*3です。左右の取付道路と繋がっている時は、橋中央の可動部分(全長58m)の満潮面からの高さ(
HWL)は3.3mですが、船が近づくとサイレンが吹鳴して、両端にあるタワー最上部に設置してあるモーターが駆動し、可動部分が上がり始めます。船が通過後、元の高さに戻り、人々が通行できるようになり、この間3分弱です。動画はこちら

 ちなみに、上がる高さは2段階(HWLから10.2mと17m)あり、船の大小や潮の満ち引きの加減(小さな船でも満潮のときはくぐれないことがある)で選択されているようです。現在、本渡港と水俣港を結ぶフェリーは廃止になりましたが、以前フェリーなど大きな船が通る時は、最上部(17m)まで上がっている様子をよく見受けました。

 ということで、歩行者用道路とは言いながらも、船が通過する時は人が待たなければならない船優先の可動橋であり、海運業が盛んだった名残みたいなものを感じます。そういうことを考えながら、白い波紋を残しつつくぐり抜ける船を見ていると、待つ不便さを甘受することさえ楽しみに思えてきますので、不思議なものです。

 可動部分の手前には、信号と遮断機があり、写真3のように信号が青の時に渡ることができます。
 可動部分の上げ下げは、監視所*4写真4)に常駐の監視員の方が操作しています。サイレンが鳴って船が近づいているのに、のんびり渡っていると、スピーカーを通して大きな声で「急いでください!」と注意されることがあります。稀に、シルバーカーを押したり、シニアーカーに乗ったりしているお年寄りが、突然のサイレンの音に驚き、橋の中央部で固まって動けなくなっている状況に遭遇することがあります。そのような時は、監視員の方がダッシュで助けに来てくれます。ということで、エレベーターの上下運動を体感したいと、橋の中央部で止まってへばりついてみることなどは絶対にできないと思われます。きっと退去命令を叫びながら、排除しに走って来ることでしょうから...。
 
監視員で思い出しましたが、その雇用を含め橋の保守管理は、多大な税金*5で賄われており、利用する方にタクシーチケットをお渡ししたほうが安くつくのでは・・・?という声を関係者から伺うことがあります。

 夜間(4月~9月:20時30分から6時まで、10月~3月:20時から6時30分まで)は、監視員の方が不在になり、上がりっぱなしなります(年に2回ほどある定期点検の期間中や霧等による視界不良時、風速15m/s以上の荒天時も上がりっぱなしになります)。暗闇の中で、写真5のように可動部の底部に青、白、赤の信号灯がほのかに浮き上がり、水面にきらきら反射している様はそれなりに趣があります。
 しかし
、部活動が少し長引いたり、放課後に友人宅で道草を食ったりしていると、こう配が急な隣の天草瀬戸大橋(後述)を渡って帰らないといけないので大変です。その恨めしい経験をしたことがある本校生はきっと多いはずです。
 それと、今はめったにないことですが、景気のいい「兄弟船」などの演歌を大音量で流しながら漁船が次から次に漁場に向かっていた一昔前は、10分以上ずっと上がりっぱなしになることがしばしばあり、「赤橋が上がっていました」と、そのことを遅刻の理由として生徒がよく用いていました。「赤橋」のせいにして自分を慰めたい気持ちも分からないではありませんが、少なくとも社会人になったら通用しないはずです。

 このような昇開式可動橋は、全国的にも非常に珍しく、九州内には民営化にともない昭和62年(1987年)に廃線になった旧国鉄佐賀線の筑後川に架かっていた橋(写真6)と「赤橋」の2基*6しかありません。なお、この線路の橋は昭和15年(1940年)に重要文化財に指定され、平成19年(2007年)に機械遺産にも認証されています。現在、地域おこしの目玉として歩道橋に生まれ変わり、周辺は筑後川昇開橋展望公園として整備されました。観光客用のパンフレットによると、「可動部分は通常上げてありますが、9時から17時まで毎正時から35分間、下げて渡ることができる」とありました。
 
従って、今も住民の生活の足として活用されている昇開式可動橋は、九州ではこの「赤橋」だけになり、造形美や機能美を求めて、多くの可動橋マニアが訪れているようです。

 この瀬戸歩道橋は、前身の瀬戸橋から考えると大変歴史が古く、しかも可動橋の3つのタイプ*7を全て経験した橋としても記憶に留められなければなりません。当時を偲ぶことができる大変貴重な画像(
写真7写真8)を卒業生で前同窓会会長の横山多喜夫氏から提供していただきました。それを基に本渡市誌等をひも解きながら、この瀬戸橋の歴史を簡単にまとめると以下のとおりです。

 天草上島と下島との間の瀬戸海峡は、干潮時には歩行も可能で「徒(かち)渡り」と称し、人力車や馬車を用い、満潮時には艀(はしけ)に頼るしかなかったようです。
 
大正12年(1923年:関東大震災があった年)7月に島民の念願であった旋回式の初代瀬戸橋(写真7)ができました。工費55,400円、長さ122m、幅6mの鉄筋コンクリート製ということですが、古老の話によると、何と人力で可動されていたということです。
 
やがてこの橋は耐用年数を迎え、昭和33年(1958年)5月に、両開き跳開式の2代目瀬戸橋(写真8)にとってかわられました。工費約1億円、長さ102.4m、幅6mで電動式、設計上の開閉回数は1日20回が限度とされていたようです。
 
ところが、昭和41年に天草五橋が開通後、本橋を通過する車両が急激に増加し、さらに航行船舶も当時の約10倍に増加したことで、交通遮断に伴う渋滞は悪化の一途をたどっていきました。1日80回にも達する開閉で続出した橋の故障も頻発し、新橋の建設が喫緊の課題となっていったようです。
 
そしてついに、昭和49年(1974年)5月、全長702.5m(別にループ状の取付道路560m)の高架橋である現在の3代目瀬戸橋(正式名称:天草瀬戸大橋;写真9)が完成することになりました(工期1年10ヶ月、総工費約10億円、鉄筋コンクリート、PC、鋼製)。この橋は国道266号線と324号線を兼任しており、下を通る船の航行ができるようにループ状で上がっていきながら、満潮面より17mの高さを確保しています。この完成により2代目瀬戸橋は撤去されました。

  

 ところが、この3代目瀬戸橋(天草瀬戸大橋)は、歩道はあるものの、急こう配で距離も長く、歩行者や自転車、リヤカーの通行に不便との声が高まりました。そこで、本渡市(当時)は歩行者用の橋の建設を計画し、運輸省(当時)や県にその実現を陳情したようです。ついに、歩行者の利便性を確保するための橋(本サイトの主人公である「赤橋」)が、1年7ヶ月の工期と総工費4億1,600万円をかけて、昭和53年(1978年)3月に完成しました。

 さて、現在の天草瀬戸大橋は、1日に3万台の交通量があり(平成22年調査)、上島側の国道324号線と同266号線の合流点付近では、朝夕2キロメートル以上の交通渋滞が日常化しています。交通渋滞緩和のため、県、天草市などは「(仮称)第二天草瀬戸大橋」構想を立てて調査を行っていました。国の補助事業の採択があったことを受けて、県は平成25年(2013年)5月から(仮称)第二天草瀬戸大橋を含む区間の整備事業に着手しています。
 県の整備計画によると、「(仮称)第二天草瀬戸大橋は、現在の天草瀬戸大橋の北側約400mの位置に建設し、上島側の本渡衛生センター(志柿町)と、下島側の本渡南地区コミュニティーセンター付近を結ぶ本線約1.3キロメートル、幅員9.5mの片側1車線の道路で、総事業費は約123億円を見込み、平成35年ごろの完成を目指している」とあります。この橋が完成すれば、通行車両の分散が見込まれ、交通渋滞の解消が期待されるほか、事故や災害時の代替道路確保の面からも重要な役割を果たすことが期待されます。橋の建設には、本校土木科の卒業生が何らかの形で数多く携わるはずで、その意味でもとても楽しみにしているところです。((仮称)第二天草瀬戸大橋の完成イメージ図

 「赤橋」を題材にした生徒や教職員の作品を幾つか紹介します。

 「暮色」というタイトルが付けられた左の水彩画は、平成28年3月に機械科を卒業した福島麻水さんが描いた作品(平成26年度天草美術展奨励賞受賞作)です。
 
福島さんによると、「夕暮れの光に反射して、赤橋がより赤くなり町を照らしているような所に心惹かれて描いた」ということで、「普段見慣れている橋ですが、見方や陽の光の入り方によって様々な表情に変える姿はとても魅力的で、もっと多くの方々にも見ていただきたいと思いました」と語っていました。

 夕暮れ時の徐々にあたりが薄暗くなっていく様、またそこのことに趣を感じる様を意味する「暮色蒼然」という四字熟語があります。「暮色」という作品題、そこから取ったのでしょうか。題名もいいネーミングだと思います。

 左の模型は、平成22年度の電気科の課題研究において、船が通る時に橋桁が昇る構造を知ってもらうことを目的に製作した60分の1のモデル(ステンレス製、モーター駆動で昇降)です。「小さなパーツが多く、ずれないように接着剤で組み立てるのが大変だった」と課題研究発表会で感想を述べた生徒もいました。


 左のコンピュータグラフィックは、平成22年度の土木科の課題研究において、可動橋の変遷を3D化して再現することを目的に製作したものです。当時の同窓会会長から話を伺ったり、写真を見せていただいたり、市役所より古い図面をお借りしたりして、Google Sketchupにデータを入力していきました。半年位かかり完成したものをICTコンテスト(熊本県教育委員会及び特定非営利団体NEXT熊本主催)に応募したところ、マルチメディア部門で最優秀賞を受賞することができました。

 本校の図書館は、機械科実習棟5階にあり、そこからはまた違った姿の赤橋を見ることができます。左のスケッチは、本校美術科講師の大平洋輔先生によるもので、そこからの眺めになります。

 ちなみに、5階に図書館がある学校は、県下の高校では本校だけですが、廊下側の窓から見下ろす運河の青さと、瀬戸歩道橋の赤のコントラストが実に美しく、吹き渡る潮風は大変心地良いものがあり、読書に疲れた目を優しく癒してくれます。

 以上、「赤橋」を軸に「第二瀬戸大橋」まで、よもやま話という形で簡単にまとめましたが、橋は私たちの社会生活や経済活動に大きな役割を果たしていることに改めて思いを致すとともに、橋に一層のロマンを感じた次第です。
 本サイトをまとめる中で、現在の橋の技術の大部分は西洋に起源をもつにもかかわらず、スカイゲートブリッジR(写真10)や明石海峡大橋(写真11)など、日本の橋梁技術は世界的に評価されるまでになっていることを知りました。また、「西洋ではローマ時代から橋の建設に携わった技術者に大きな社会的敬意が払われている一方、橋も一般の建設工事の一つと捉えられている我が国では、土木技術者とその技術に対する称賛が少ないのでは・・・」という問題提起があっていることも知りました。
 当たり前過ぎる橋の存在に対して、これまであまり関心を払っていなかったことを反省した次第です。

 そのような社会の風潮・意識の改革のために、土木技術者の卵たちを育てている学校として、何らかの取組ができないものか・・・。天草五橋1号橋の横に新設され、日々姿を現し始めている(仮称)新天門橋の建設現場(
写真12)の横を通りながら、思いは高まるところです。
 ここまでお読みいただきありがとうございました。


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*1 「瀬戸海峡」について≫
 本校生にとっては普段から見慣れた瀬戸海峡。生徒達は輝く水面を見てくつろいだり、クラスマッチで魚釣りを競ったりする楽しい水辺で、地元の人達は親しみを込めて「運河」と呼んでいます。有明海と八代海を延長約5キロメートルで結び、古くから長崎県や天草北岸から八代海沿岸や鹿児島県への海上最短コースとして重要な役割を果たしている海峡です。写真13は「赤橋」のたもとにある看板を写したものですが、ここにも記載されているように、開発保全航路として、国土交通省が管理する海上航路上の要所でもあります。
 本海峡の歴史については、本渡市誌によると「最浅部は干潮時には歩行も可能な水深で航路としての常時利用はできなかったので、昭和29年から国の直轄事業として航路開削を始め、昭和36年に完成した。しかし完成後は予想以上の船舶が航行するようになり、年々大型化してきたので海難事故が多発し、憂慮すべき状態となった。そこで、昭和39年に拡幅工事(幅50m)に着手。さらに昭和43年から増深工事(水深マイナス4
.5m)にとりかかり、昭和51年から第5次港湾整備5カ年計画で整備された」とあります。

*2 124.8mについて≫
  自動車のナンバープレートに自分の希望する番号をつける希望ナンバー制度が平成11年5月から始まっています。国土交通省のHPによると、特に希望が集中すると考えられる「1」、「7」、~、「8888」の14通りについては全国一律に抽選にするとあり、4桁の数字では「1111」、「2020」、「3333」、「5555」、「7777」と「8888」の6つが該当しています。巷のナンバーウオッチャーが開設したあるHPでは、4桁のナンバーの断トツ1位は「1122」(いい夫婦)とありました。本サイトをお読みの方は、4桁で好きな数字がありますか。
 ところで、この「赤橋」の全長124.8mの「1248」、偶然にしてはよくできすぎた数字の並びであり、末広がりで、なかなかいい数字だと思っています。1248の約数は24個あり、それは本HPの運営責任者(筆者)の名前になるなど、そういう意味でも親しみを感じる数字です。
 どうでもいいことかもしれませんが、世界一のタワーである東京スカイツリーの高さ634mは、東京、埼玉、神奈川の一部を含む大規模な地域を指す旧国名、武蔵(むさし)国から取ったことは広く知られていますが、橋にもそういうものがあるようです。愛知県名古屋市港区にある名港西大橋の全長(758m)、これは名古屋(なごや)にちなんでいると言われています。

*3 可動橋について≫
 ウィキペディア(Wikipedia)では、可動橋について実に詳しく説明されています。(ウィキペディアはこちら
 本稿では、可動橋の代表的なタイプとして、跳開橋、旋回橋、昇開橋の3つを取りあげていますが、ウィキペディアではその他にも、引込橋、運搬橋、折畳み橋、降開橋、巻き上げ橋、傾ける橋など様々なタイプが紹介されています。また、その稼働概念図も動画で見ることができます。
 「船を通すために人類は色々と考えたんだな・・・」としみじみ感慨にふけることができます!?


*4 監視所の責任者を務める九州テクニカルメンテナンス㈱瀬戸事業所の有江信一所長に「赤橋」に関する9つの質問について、インタビューをお願いしました。≫

 Q1 上げ下げは1日何回位ありますか。何時ごろが一番忙しいのでしょうか。
 A1 近年、1日を平均して25回程度上げ下げをしています。
    通行人が多い時間帯は8時から9時と16時から18時ですが、天候の良い日は、
   他の時間帯も利用者は結構いらっしゃいます。ただ、通行人数調査は本来の業務では
   ありませんので、正確なデータは持ち合わせておりません。
    船舶の航行については、1日の中では8時から9時と13時から14時の時間帯が
   多いですが、天候と潮位に左右されます。1年では5月と12月多いようです。
    上げ下げの操作対応が常にできる態勢で監視をしておりますので、忙しいとか暇と
   か言える状況にはありません。


 Q2 実際の運転は、安全を確認後、スイッチを押すだけですか。
 A2 いいえ。スイッチを押すだけではありません。監視業務中に船舶の接近を発見して
   から橋を上昇開始させるまでに次の3段階があります。   
  ①船舶を発見したら、双眼鏡等を使って目視で高
   さ判定を行い、2段階のうちのどちらにするか
   判定して、選択スイッチ(写真14)を操作し
   ます。そうすると、サイレンが吹鳴すると同時
   に信号が赤になります。
  ②通行人の行動を観察し、安全確認を行い、橋の
   可動部から退去するまで待ちます。(船舶もな
   かなか徐行してくれませんので、大きな声で
   「急いでください」のアナウンスをせざるをえ
   ないこともあり、心苦しく思うところです)通
   行人が橋の可動部から退去できたら、遮断機の閉鎖指令ボタンを押します。(閉鎖
   完了まで約12秒要します)
  ③遮断機閉鎖が完了し、通行人が橋の可動部にいないことが確認できたら、橋上昇指令
   ボタンを押します。(中間位置まで上昇するのに約58秒要します)
   以上のような一連の流れがあって初めて橋の可動部を上昇させることができますの
   で、これを自動(スイッチ一つ)で運転しようとすれば、非常に複雑なシステムの構
   築と、通行人及び船舶側の理解と協力が必要になり、現時点では難しいと思います。


 Q3 運転操作で一番神経を使うことは何ですか。
 A3 幾つかあります。
   ・ 船舶の高速化、潮位によっては航路が湾曲していることもあり、早期の発見がしに
     くいこと。
   ・ 天候不良(強雨、雪、霧)や夜間等は、船舶が発見しにくいこと。
   ・ 通行人の方で身体の不自由な(歩行困難)方が通行されているとお見受けしたと
     き、船舶の接近がないか神経を使います。


 Q4 監視員の方は、基本的にどのような勤務体系ですか。
 A4 早出勤務と遅出勤務の2交代制で、基本的には2名ずつで勤務を行っています。
   ・  4/1~9/30 早出5:45~13:15、遅出13:15~20:45(橋供与6:00~20:30)
   ・ 10/1~3/31 早出6:15~13:15、遅出13:15~20:15(橋供与6:30~20:00)


 Q5 昇降の途中で停電となった場合はどうなりますか。
 A5 非常用自家発電装置が設置してあり、1秒以上の停電を検出した場合、10秒程度
   で自家発電装置の負荷に切り替わります。そこで動作中の指令を出してやると、運転
   を継続します。自家発電装置はディーゼルエンジンで駆動し、出力187.5kV、
   電圧440Vです。


 Q6 この運転業務に携わってヒヤッとしたこと(ヒヤリハット)や嬉しかったことはあ
   りますか。
 A6 どちらも幾つかあります。
   ・ 船舶が近づいてきたのでサイレンを鳴らした途端、押していた自転車に慌てて乗ろ
     うとされた通行人が転倒されたことがありました。
   ・ 船舶が近づき上昇のためのサイレンを鳴らすのですが、気づいていらっしゃるよう
     なのにマイペースを保ち、急ごうとされない通行人がいらっしゃいます。
   ・ 船舶が近づき、上昇のためのサイレンを鳴らし、既に遮断機が閉鎖している途中に
     もかかわらず、橋可動部に進入した自転車がありました。
   ・ 船舶が近づいてきたので、橋上昇のために操作しようとしている際、身体の不自由
     な方の通行があり、時間がかかっているにもかかわらず、接近する船舶が徐行する
     気配が見られなかったことがありました。
   ・ 最近、船長さんが挨拶に手を振って行かれることが多くなりました。
   ・ 点検をしていると、通行人の方が「おはようございます」とか「ご苦労様」とか声
     をかけていただくことが多くなりました。


 Q7 橋の可動部の重さは約何トンあり、それを上昇させるためにタワーの上部に設置し
   た巻き上げ装置にはモーターがいくつありますか。
 A7 可動部の重さは約89トンあります。タワーの上部の四角い部屋が機械室になって
   いますが、上島側、下島側各々にモーター(㈱安川電機製、出力30kW
   【440V】、型式 FRT-OW クレーン用全閉三相巻き線形誘導電動機)が1
   台ずつ設置されています。


 Q8 エレベーターのように重り(カウンターウエイト)と可動部の重量をバランスさせ
   ながら上下する仕組みですか。設計の授業で応力等の計算をさせたいのですが、ワイ
   ヤーロープの本数や直径等を教えてもらうことは可能ですか。
 A8 ご質問のとおり、重り(カウンターウエイト)があります。ただし、タワーの柱の
   内部の中央に設置されており、外から見ることはできません。カウンターウエイトは
   1個が18.1トンあり、4個(4本のタワーにそれぞれ1個ずつ)あります。
    カウンターウエイトは、橋可動部とは2本のワイヤーロープで繋がっていてガイド
   用のアングルに沿って上下しています。
    ワイヤーロープの諸元は次のとおりです。(神鋼鋼線工業㈱)
   ・巻上用 JISG3525 21号(6×WS)36メッキ B種 Zより
    φ33.5×24m 4本
   ・カウンターウエイト用 JISG3525 21号(6×WS)36メッキ
    B種 Zより φ37.5×21.1m 4本 φ37.5×21.6m 4本の
    合計12本によって昇降させています。

 Q9 最後に、橋の利用者に何かメッセージがあればお願いします。
 A9 この歩道橋は航路上に建設されているために、船舶にとっては障害となるため、
   「船舶優先」として運用しています。従って、船舶の速度、通行人の状況等を判断
   して、橋の上昇を行いますので、サイレンが鳴ったら無理やり進入しないでくださ
   い。また、橋の可動部を通行中の方は、速やかに渡り切ってください。
    繰り返しになりますが、通行人の状況を判断して遮断機を下す、遮断機閉鎖の完
   了、橋の可動部を上昇、この一連の操作がスムーズにできなければ、船舶との事故発
   生が懸念されますのでご協力をお願いします。ただし、船長さんにも海上衝突予防法
   第5条(見張り義務)、第6条(安全な速力)等の遵守義務もあります。従って、陸
   上と海上の交差点という観点から、お互いに譲り合いの精神でご活用をお願いしたい
   と思います。
    また、この橋は道路交通法で「歩道」として位置づけられていますので、右側通行
   をお守りください。単車はエンジンを切って押して通行してください。(単車で乗車
   して通行し、反則金を支払った方もかなりいらっしゃいます。ちなみに工業高校側の
   信号交差点からは単車や自動車は進入禁止(一方通行)になっています。この標識を
   見落として進入すると、これまた反則金を支払うことになります)
    橋の可動部が下降してきて下限に近付いたとき、やっと渡れると思われるかもしれ
   ません。しかし、その時に次の船舶の接近があった場合は、遮断機の開放を行わずに
   「もう一度上昇します」等のアナウンス後に上昇させることがありますので、十分ご
   注意ください。そのためにもイヤホーンを使用しての通行はやめましょう。アナウン
   スやサイレンが聞こえないことが懸念されますので。
    最後に、歩道橋上は大変狭いので、朝夕の混雑時には、お互いに譲り合って事故が
   ないようにご利用いただくようにご協力ください。


    ※ ご多用中に、面倒な質問を伴う取材に快く協力していただいただけでなく、大
     変丁寧な回答をいただきありがとうございました。この取材を通して、「赤橋」
     は、通行人と船長さんと監視員さんの「阿吽(あうん)の息」があう絶妙なとこ
     ろで安全が保たれていることが深く理解でき、それは新たな発見でもありまし
     た。



*5 「赤橋」の運転・維持管理に投入される税金はどの位?≫
 歩道橋を維持管理していく上で必要な費用については、「運転・維持管理費」、「運転に要する電気料金」、「保守管理に必要な電気関係の部品や油脂類」、「設備老朽化に伴う更新費用」等が税金で賄われています。その額は年間に3,550万円ぐらいと聞いています。

*6 昇開式可動橋は九州では2基、全国では9基≫

国内の昇開式可動橋一覧(H28.5現在)

所在地可動部分(m)橋長(m) 対象交通
瀬戸歩道橋熊本県58