≪*4 監視所の責任者を務める九州テクニカルメンテナンス㈱瀬戸事業所の有江信一所長に「赤橋」に関する9つの質問について、インタビューをお願いしました。≫
Q1 上げ下げは1日何回位ありますか。何時ごろが一番忙しいのでしょうか。
A1 近年、1日を平均して25回程度上げ下げをしています。
通行人が多い時間帯は8時から9時と16時から18時ですが、天候の良い日は、
他の時間帯も利用者は結構いらっしゃいます。ただ、通行人数調査は本来の業務では
ありませんので、正確なデータは持ち合わせておりません。
船舶の航行については、1日の中では8時から9時と13時から14時の時間帯が
多いですが、天候と潮位に左右されます。1年では5月と12月多いようです。
上げ下げの操作対応が常にできる態勢で監視をしておりますので、忙しいとか暇と
か言える状況にはありません。
Q2 実際の運転は、安全を確認後、スイッチを押すだけですか。
A2 いいえ。スイッチを押すだけではありません。監視業務中に船舶の接近を発見して
から橋を上昇開始させるまでに次の3段階があります。
①船舶を発見したら、双眼鏡等を使って目視で高
さ判定を行い、2段階のうちのどちらにするか
判定して、選択スイッチ(写真14)を操作し
ます。そうすると、サイレンが吹鳴すると同時
に信号が赤になります。
②通行人の行動を観察し、安全確認を行い、橋の
可動部から退去するまで待ちます。(船舶もな
かなか徐行してくれませんので、大きな声で
「急いでください」のアナウンスをせざるをえ
ないこともあり、心苦しく思うところです)通
行人が橋の可動部から退去できたら、遮断機の閉鎖指令ボタンを押します。(閉鎖
完了まで約12秒要します)
③遮断機閉鎖が完了し、通行人が橋の可動部にいないことが確認できたら、橋上昇指令
ボタンを押します。(中間位置まで上昇するのに約58秒要します)
以上のような一連の流れがあって初めて橋の可動部を上昇させることができますの
で、これを自動(スイッチ一つ)で運転しようとすれば、非常に複雑なシステムの構
築と、通行人及び船舶側の理解と協力が必要になり、現時点では難しいと思います。
Q3 運転操作で一番神経を使うことは何ですか。
A3 幾つかあります。
・ 船舶の高速化、潮位によっては航路が湾曲していることもあり、早期の発見がしに
くいこと。
・ 天候不良(強雨、雪、霧)や夜間等は、船舶が発見しにくいこと。
・ 通行人の方で身体の不自由な(歩行困難)方が通行されているとお見受けしたと
き、船舶の接近がないか神経を使います。
Q4 監視員の方は、基本的にどのような勤務体系ですか。
A4 早出勤務と遅出勤務の2交代制で、基本的には2名ずつで勤務を行っています。
・ 4/1~9/30 早出5:45~13:15、遅出13:15~20:45(橋供与6:00~20:30)
・ 10/1~3/31 早出6:15~13:15、遅出13:15~20:15(橋供与6:30~20:00)
Q5 昇降の途中で停電となった場合はどうなりますか。
A5 非常用自家発電装置が設置してあり、1秒以上の停電を検出した場合、10秒程度
で自家発電装置の負荷に切り替わります。そこで動作中の指令を出してやると、運転
を継続します。自家発電装置はディーゼルエンジンで駆動し、出力187.5kV、
電圧440Vです。
Q6 この運転業務に携わってヒヤッとしたこと(ヒヤリハット)や嬉しかったことはあ
りますか。
A6 どちらも幾つかあります。
・ 船舶が近づいてきたのでサイレンを鳴らした途端、押していた自転車に慌てて乗ろ
うとされた通行人が転倒されたことがありました。
・ 船舶が近づき上昇のためのサイレンを鳴らすのですが、気づいていらっしゃるよう
なのにマイペースを保ち、急ごうとされない通行人がいらっしゃいます。
・ 船舶が近づき、上昇のためのサイレンを鳴らし、既に遮断機が閉鎖している途中に
もかかわらず、橋可動部に進入した自転車がありました。
・ 船舶が近づいてきたので、橋上昇のために操作しようとしている際、身体の不自由
な方の通行があり、時間がかかっているにもかかわらず、接近する船舶が徐行する
気配が見られなかったことがありました。
・ 最近、船長さんが挨拶に手を振って行かれることが多くなりました。
・ 点検をしていると、通行人の方が「おはようございます」とか「ご苦労様」とか声
をかけていただくことが多くなりました。
Q7 橋の可動部の重さは約何トンあり、それを上昇させるためにタワーの上部に設置し
た巻き上げ装置にはモーターがいくつありますか。
A7 可動部の重さは約89トンあります。タワーの上部の四角い部屋が機械室になって
いますが、上島側、下島側各々にモーター(㈱安川電機製、出力30kW
【440V】、型式 FRT-OW クレーン用全閉三相巻き線形誘導電動機)が1
台ずつ設置されています。
Q8 エレベーターのように重り(カウンターウエイト)と可動部の重量をバランスさせ
ながら上下する仕組みですか。設計の授業で応力等の計算をさせたいのですが、ワイ
ヤーロープの本数や直径等を教えてもらうことは可能ですか。
A8 ご質問のとおり、重り(カウンターウエイト)があります。ただし、タワーの柱の
内部の中央に設置されており、外から見ることはできません。カウンターウエイトは
1個が18.1トンあり、4個(4本のタワーにそれぞれ1個ずつ)あります。
カウンターウエイトは、橋可動部とは2本のワイヤーロープで繋がっていてガイド
用のアングルに沿って上下しています。
ワイヤーロープの諸元は次のとおりです。(神鋼鋼線工業㈱)
・巻上用 JISG3525 21号(6×WS)36メッキ B種 Zより
φ33.5×24m 4本
・カウンターウエイト用 JISG3525 21号(6×WS)36メッキ
B種 Zより φ37.5×21.1m 4本 φ37.5×21.6m 4本の
合計12本によって昇降させています。
Q9 最後に、橋の利用者に何かメッセージがあればお願いします。
A9 この歩道橋は航路上に建設されているために、船舶にとっては障害となるため、
「船舶優先」として運用しています。従って、船舶の速度、通行人の状況等を判断
して、橋の上昇を行いますので、サイレンが鳴ったら無理やり進入しないでくださ
い。また、橋の可動部を通行中の方は、速やかに渡り切ってください。
繰り返しになりますが、通行人の状況を判断して遮断機を下す、遮断機閉鎖の完
了、橋の可動部を上昇、この一連の操作がスムーズにできなければ、船舶との事故発
生が懸念されますのでご協力をお願いします。ただし、船長さんにも海上衝突予防法
第5条(見張り義務)、第6条(安全な速力)等の遵守義務もあります。従って、陸
上と海上の交差点という観点から、お互いに譲り合いの精神でご活用をお願いしたい
と思います。
また、この橋は道路交通法で「歩道」として位置づけられていますので、右側通行
をお守りください。単車はエンジンを切って押して通行してください。(単車で乗車
して通行し、反則金を支払った方もかなりいらっしゃいます。ちなみに工業高校側の
信号交差点からは単車や自動車は進入禁止(一方通行)になっています。この標識を
見落として進入すると、これまた反則金を支払うことになります)
橋の可動部が下降してきて下限に近付いたとき、やっと渡れると思われるかもしれ
ません。しかし、その時に次の船舶の接近があった場合は、遮断機の開放を行わずに
「もう一度上昇します」等のアナウンス後に上昇させることがありますので、十分ご
注意ください。そのためにもイヤホーンを使用しての通行はやめましょう。アナウン
スやサイレンが聞こえないことが懸念されますので。
最後に、歩道橋上は大変狭いので、朝夕の混雑時には、お互いに譲り合って事故が
ないようにご利用いただくようにご協力ください。
※ ご多用中に、面倒な質問を伴う取材に快く協力していただいただけでなく、大
変丁寧な回答をいただきありがとうございました。この取材を通して、「赤橋」
は、通行人と船長さんと監視員さんの「阿吽(あうん)の息」があう絶妙なとこ
ろで安全が保たれていることが深く理解でき、それは新たな発見でもありまし
た。
≪*5 「赤橋」の運転・維持管理に投入される税金はどの位?≫
歩道橋を維持管理していく上で必要な費用については、「運転・維持管理費」、「運転に要する電気料金」、「保守管理に必要な電気関係の部品や油脂類」、「設備老朽化に伴う更新費用」等が税金で賄われています。その額は年間に3,550万円ぐらいと聞いています。
≪*6 昇開式可動橋は九州では2基、全国では9基≫
国内の昇開式可動橋一覧(H28.5現在) | 所在地 | 可動部分(m) | 橋長(m) | 対象交通 |
瀬戸歩道橋 | 熊本県 | 58 |
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