校長室からの風(メッセージ)

始球式

「ボールよ、届け」 
100回全国高等学校野球選手権熊本大会始球式  

 「ボールよ、届け」と念じて、税所さんは投げたそうです。そのボールは見事にストライクで捕手の井上さんのミットに収まりました。打者役の学園大学付属高校の隈部君が大きく空振りのスイングをしてくれました。スタンドの観衆から湧き起こる歓声と拍手に三人は包まれました。笑顔の税所さんは帽子を脱ぎながらマウンドを駆け下り、井上さんもホームベースから走り寄り、二人が抱き合って喜ぶ光景は輝いて見えました。

 7月1日(日)、県営藤崎台球場で第100回全国高等学校野球選手権熊本大会の開会式が行われました。熊本県高等学校野球連盟の指名を受け、名誉ある選手宣誓を多良木高校の平野光主将が務めました。そして、開会式後の第100回記念の始球式の投手と捕手の大役も多良木高校生が担うことになったのです。これは、6月14日の抽選会の際、県高野連の竹下会長による抽選で決まったのです。今年度で閉校を迎える本校にとって、選手宣誓だけでなく始球式もさせて頂けるとは何という幸運でしょうか。「最後の夏」を迎える多良木高校野球部に対して、野球の神様が微笑んでくれたのかもしれません。

 始球式は、6人いる本校野球部マネージャーからリーダーの税所愛莉さんとサブリーダーの井上もなみさんに決まりました。二人は、野球部の練習が始まる前、また終わってからグラウンドで特訓に取り組みました。投手と捕手の距離は18.4mと定められていますが、硬球をストライクで投げることがいかに難しいことか二人は痛感する日々でした。捕手役の井上さんは慣れないキャッチャーマスクとプロテクターを装着し、初めは自由に動くことさえできない様子でした。けれども、監督やコーチ、選手たちの指導を受け練習を重ねたのです。

 多良木高校野球部の6人のマネージャーは、決して部活動の裏方ではありません。打撃練習ではグローブを着けて外野を守り、白球を追い掛けてきました。18人の選手と一緒に戦ってきた意志と体力を持っています。税所さんと井上さんはその本領を発揮したのです。

 それにしても、大観衆が見守り、テレビ中継が行われている緊張感の中、よくぞストライクを投げることができたと驚きます。奇跡はやはり人が起こすものだと改めて高校生が教えてくれました。