校長室からの風(メッセージ)

福島からのお客様

福島からのお客様

 
 
福島県二本松市岳温泉の「陽日の郷 あづま館」の女将である鈴木美砂子さんが、4月18日(金)に来校されました。今年1月に2年生(現3年生)が同館を修学旅行で訪れ、3泊して「あだたら高原スキー場」でスキー研修を行いました。東日本大震災以来、岳温泉を九州の高校が修学旅行で訪れるのは初めてということもあり、温泉観光協会あげての歓迎を生徒たちは受けました。旅行後、女将さんから、生徒一人ひとりに文面が異なるお礼のはがきが届き、その心配りに生徒たちは感激しました。

 今回、女将の鈴木さんは17日に福岡市でお仕事があり、敢えて滞在を延ばして、本校を訪問されたのです。体育館で3年生と交流会を行い、体育コースの授業も見学されました。僅か1時間の滞在でしたが、生徒たちは、再会の驚きと喜びに浸っていたようです。

 校長室で、遠路はるばるの訪問に対し、私が御礼を申し上げると、鈴木さんは次のように語られました。

 「旅館の女将として、多くの出会いの日々を送っています。しかし、震災後の九州からの初めての修学旅行は、私どもにとって復興への光のように感じました。そして何より、3泊4日の間の生徒さん達の生活態度が素晴らしく、私の震災講話も皆さん真剣に聴いてくださったことが忘れられませんでした。」

 過分のおほめにあずかり、私は面はゆい思いでした。最後に、鈴木さんが「実は…」と少しためらいの表情を見せながら話をされました。

 「旅行後に多良木高校のことをインターネットで調べたところ、生徒数の減少で高校再編整備の対象となって、数年後には閉校になると知りました。あの明るく礼儀正しい生徒さんたちが、このことで寂しい思いをしているのではないかと気になり、どうしてもお訪ねしたくなったのです。生徒の皆さんがお元気そうで安心しました。」

 鈴木さんのお気遣いに私はただ頭を下げるだけでした。

 二本松の歴史は苦難に満ちたものだとも語られました。明治維新の戊辰戦争では、会津藩に味方した二本松藩は官軍の猛攻を受けて敗れ、賊軍の汚名を着せられました。その後も、明治時代の後半に大火に見舞われ岳温泉街が壊滅するという試練がありました。そして、東日本大震災が起こったのです。まだまだ復興途上で、様々な困難と向かい合っていらっしゃる女将の鈴木さんだからこその優しさと思いやりだと思います。

 二本松市は、詩人の高村光太郎の妻智恵子の故郷で知られます。詩集『智恵子抄』の中で、智恵子は「東京にはほんとうの空が無い」、「ほんとうの空」は、故郷の安達太良山の上にある、と言っています。福島県をはじめとする被災地の一日も早い復興を念じると共に、生徒たちと一緒に「ほんとうの空」を見に行きたいと願っています。

                      



       野球場から校舎、体育館を望む