筆をふるう ~ 熊本県高等学校揮毫大会

 

 「揮毫」(きごう)とは、筆をふるうという意味の言葉です。日常生活では耳にしなくなった言葉ですが、書道の世界では健在です。9月7日(土)、宇土市民体育館において、第25回熊本県高等学校揮毫大会(熊本県高等学校文化連盟書道部会主催)を開催しました。県内各地から40校、335人の生徒が出場し、1階アリーナで一斉に筆をふるう光景は壮観でした。

 書道は一人でもできます。しかし、やはり、志を同じくする者が集い、競い合い、高め合う場が必要だと思います。本大会は3年生が出場できる最後の大会です。書道に親しむ高校生にとって、本大会はこの夏の活動目標だったと思います。夏にどれだけ汗を流して取り組んだか。この大会は夏の練習成果が発揮される場と言えます。大会に臨む生徒たちの緊張感が伝わってきました。

 開会式において、代表生徒(八代清流高生)による宣誓がありましたが、紋切り型ではなく、印象的なエピソードが盛り込まれていました。それは、中国の高校生と交流の機会があり、現在の中国では使われていない漢字を臨書する日本の高校生に対し敬意を表された話でした。書道が、漢字という連綿と続く文化の集積の上に成立していることを示すエピソードと言えます。

 揮毫、すなわち生徒たちが筆をふるう実時間は午前10時から正午までの2時間です。この間は、各学校の顧問教師も2階席から見守ることしかできません。臨書部門は練習してきた書を作品に仕上げますが、創作部門は当日に課題の書が提示され、その中から選びます。漢字では李白、王維の五言絶句、七言律詩、仮名は古今和歌集、与謝蕪村の句、そして漢字仮名交じりでは、近代の短歌、俳句、詩句が課題でした。

 御船高校からは書道部15人が参加しました。それぞれが集中して紙に向かい、筆をふるう姿は頼もしく映りました。書き終えて2階席に上がってきた生徒たちは「緊張して最初は筆が震えました」、「2時間では時間が足りません」など口にしていましたが、充足感が皆の表情に浮かんでいたと思います。

 審査結果が出たのは午後5時を回っていました。御船高校は三つの部門(全8部門)で1位を取り、団体で準優勝の立派な成績を得ました。熊本県高校書道界では、御船高校書道部はすでに名門と呼ばれる存在です。本大会で3年生は引退しますが、2、3年生による新しい部活動がさらなる伝統を創っていくことでしょう。