鉄球を遠くへ ~ パラスポーツ練習風景

    午後3時半を回っても御船高校グラウンドは西からの猛烈な陽射しが照りつけていました。気温は30度を優に超えているでしょう。グラウンドのコーナーで、3年生の見﨑さんが「パラスポーツ砲丸投げ競技」仕様の台に座り、重さ3㎏の鉄球を投げます。パラスポーツの外部コーチの方と本校陸上部顧問の高橋教諭が付いて、砲丸投げの練習が行われているのです。パラスポーツとして砲丸投げを始めてまだひと月の見﨑さんですから、鉄球は3mほどしか飛ばず、鈍い音を立て地面に落ちます。しかし、フォームをチェックしながら、本人は汗をぬぐい、投擲を繰り返します。

 高校生パラアスリートの見﨑さん(3年生)のことは、この「校長室から風」で昨年度も紹介しました。中学時代に交通事故に遭い、日常を車椅子で過ごすことになりましたが、本校入学後に車いす陸上に出会いました。御船高校陸上部員として筋力トレーニングは他の部員と一緒に行いながら、熊本県車いす陸上競技連盟に所属し、水・金・土・日は車いす陸上競技の選手達と県総合運動公園等で練習しています。その運動能力の高さが注目され、パラアスリート強化候補選手(陸上競技)に選ばれ、全国の合同練習会にも参加しました。車いすマラソンに加え、短距離にも挑戦、そして今度は砲丸投げも始めることになったのです。

 「投擲種目は好きです。肩には自信があるんです。だから、頑張れます。」と汗を拭きながら見﨑さんは語ってくれました。コーチの方も支援されますが、パラアスリート仕様の競技台の設定はじめ練習準備は、基本、自分でできることは全て自分で行います。黙々と鉄球を投げます。短く小さい放物線を描き、鉄球は落ちます。距離は伸びません。3㎏の鉄球の重さ、そして暑さがじわじわと本人に負荷をかけていきます。けれども、見﨑さんの眼は輝き、意志の力を感じます。

 昨日が初めて学校での砲丸投げの練習でした。車いすマラソン向けの練習は校外で行っているのですが、砲丸投げは学校でもできるのではないかとコーチと話し合い、陸上部の練習の一環で取り組むことにしたそうです。今後、週に2日程度、御船高校グラウンドで砲丸投げの練習をすることになりそうです。学校としても大歓迎です。見﨑さんのパラアスリートとしての練習風景を多くの生徒たちが目にすることになります。生徒たちは、見﨑さんの車いすマラソンでの実績は知っていても、その厳しい練習の様子を見たことはありません。見﨑さんの練習風景を通じて、初めてパラスポーツを身近に感ずることになるでしょう。

 ちょうど1年後の2021年8月24日、東京パラリンピック開幕です。パラスポーツの普及は、私たちの社会をもっと多様性豊かなものにしていくでしょう。