徒然雑記帖

「筒井筒」の研究授業

 

 国語の研究授業を参観しました。教材は伊勢物語の「筒井筒」です。

 

 私は「好きな歴史上の人物を一人挙げよと言われたら、在原業平(ありわらのなりひら)を第一候補にするかな・・・」というほどの業平ファンです。ということで、伊勢物語やそのモデルされる在原業平については、この徒然雑記帳でも以下のとおり4回に渡って取りあげてきました。

 

 平成29年4月18日:「565656」(伊勢物語は56歳で亡くなったとされる在原業平がモデルとされ、第56代清和天皇の御代(みよ)の出来事・・・)、同4月30日:「いずれがあやめかかきつばた」、同5月28日:「業平忌」、平成31年1月15日:「月やあらん」

 

 「業平忌」でも書いていたことですが、和歌に優れ六歌仙の一人でもある業平は、今から約1,200年前に生きた天皇の血を引く由緒正しい実在の貴族です。既存の風習にとらわれず、56年の生涯の中で多くの女性(一説には3,733人)と関係を持っていきます。一夫多妻制の当時の結婚形態を考慮に入れてもスゴイの一言ですが、別にそういう所に憧れるのではなく、反骨の精神で自由奔放にそして風流に生きたその生き様に心惹かれるわけです。

 

 伊勢物語、手元のシラバスによると、本校では2年生の国語総合で2学期に学習するようです。機会があれば、ぜひ参観してみたいと3年間ずっと思っていて、とうとう実現しました。それも研究授業という形で。内容は第23段、「筒井筒(つついづつ、旧かなでは「つつゐづつ」)です。筒井筒とは、今では見かけなくなりましたが、丸く掘った井戸の枠のことで、互いに惹かれていた幼馴染の男女が結婚し、その後が波乱万丈という物語です。

 

 事前に配られた学習指導案では、「ホットシーティングを行うことで、登場人物の言動や心情について読みを深める」とあります。ホットシーティングとは、恥ずかしながら初めて目にする教育用語でした。一体どんな授業だろうとワクワクして建築2年の教室に向かいました。

 目の前で展開された授業は、生徒が登場人物になりきり、他の生徒からの質問(インタビュー)に応えるというもので、「なるほどこういう活動をしたら、感情移入をしながら自分のこととして文学を読む力がつくのだな・・・」と実感しました。

 この物語、幼馴染が結婚したところまではよかったのですが、妻の親が亡くなり経済的な援助が受けられないと分かると、途端に別の女をこしらえ、しかも女が浮気をしているのではないかと疑い始めて庭に隠れて様子を窺うなど、男の身勝手さが光って?います。千年も前からホントに男ってヤツは・・・と感じている女子の皆さんも多かったはずです。ということで、男女の機微を察するには十分過ぎるこの教材、生徒たちのインタビューとその回答も迫真に迫ったものがあり、大変面白かったです。

 

 話は変わりますが、生徒の皆さん、一週間前の11月1日は何の日だったか知っていますか?

 答えは「古典の日」です。源氏物語千年紀を記念して11年前の平成20年(2008年)11月1日に京都で宣言されました。その2年後の平成22年、国の法律でも制定されています。古典は文法が難しく、私自身は高校のときアトピーが出るほど毛嫌いしていた悲しい思い出があります。でも、「現代語訳を読むとしみじみ読める作品って意外に多いよね」というのが今の実感で、その代表作が伊勢物語と思っています。

 

 伊勢物語は全部で125段ですから、薄い文庫本1冊程度です。一話一話も短く、簡潔です。どこから読んでもいいし、読み飛ばしてもいいので疲れません。その意味で古典に親しむ入口として最適です。それでいて、深い内容があり、とても面白いです。何が、面白いのか?何と言っても、歌がいいです。現代人と変わらぬ喜怒哀楽を詠んでいますので、「この気持ち、わかるなぁ」と共感できる歌が必ず見つかるはずです。詠まれている歌は、男女の恋愛、男同士の友情、親子の情愛、年を取ること、愛する人の死、旅の情緒など実に多彩です。生徒の皆さんもこれをきっかけに伊勢物語を読んでみませんか?

 その取り掛かりとしてお薦めは、詩人の俵万智さんの「恋する伊勢物語」(ちくま文庫)です。伊勢物語を現代語訳しながら、個人的恋愛論や体験談を交えながらその面白さを伝えるユーモラスなエッセイです。残念なことに本校の図書館にはないそうです。

【校長】