透明骨格標本の作り方
 近年、静かなブームを呼んでいる透明骨格標本。
 それは普通の骨格標本のように肉を取り除くのではなく、骨に色をつけて、特殊な薬品により筋肉を透明にして作る骨格標本です。透明になっていますが筋肉はそのままなので、生物が生きていたときのままの状態で骨格を観察することができます。


キビナゴ Spratelloides gracilis (2010年3月作製)


 写真はキビナゴの透明骨格標本です。硬骨を赤色、軟骨を青色で染色し、タンパク質分解酵素で筋肉を透明化して試験管の中にグリセリンで封入してあります。非常に美しい標本で、そのまま部屋のインテリアにしてしまいたいくらいです。

 ここでは、御船高校で行っている透明骨格標本の作製方法を紹介したいと思います。

準備するもの

 まずは標本にする生物(試料)を用意しましょう。最初はメダカなどの小魚で作るのがよいと思います。

 基本的に透明骨格標本は、普通の骨格標本が作りにくい小型の生物を対象にしています。大型の生物でも作るのは可能ですが、膨大な時間と薬品が必要になるので、あまりオススメできません。とりあえず、生物が大きければ大きいほど作製に時間がかかるということだけは頭に入れておいてください。
 ここでは初心者向けのメダカを試料に使って説明していきます。
 次に、使用する薬品や器具を紹介します。


<使用する薬品>
ホルマリン、エタノール、氷酢酸、アルシアンブルー8GX、四ホウ酸ナトリウム、アリザリンレッドS、トリプシン、水酸化カリウム、グリセリン、チモール


<必要な器具など>
ビーカーやタッパーなどの容器、スクリュー管などの封入容器、ピンセット


 薬品は高価なものが多い上、劇物もあるので取り扱いには十分注意してください。
 容器は100円均一などに売っているタッパーで十分です。生物の大きさに合わせて用意しましょう。

 これ以降は、具体的な作り方の説明に入りたいと思います。
 すること自体はそんなに難しくありませんが、メダカくらいの大きさでも完成までに2~3週間はかかりますので、時間に余裕をもって進めていきたいところです。

(1)ホルマリンによる固定

 試料を10%ホルマリン(ホルマリン原液を10倍希釈)に入れます。メダカの場合は50~100ccあれば十分ですが、当然ながら試料の大きさによって量は変わってきます。以降の水溶液も、試料の大きさに合わせた量を使ってください。
 10%ホルマリンには5日~7日程入れておきます。試料が大きい場合は、10日以上入れておいた方がよいでしょう。



 ホルマリンの役割は試料の固定です。固定とは簡単にいうと腐らないように処理することですが、透明骨格標本の場合、透明化するときに筋肉をつくるタンパク質がバラバラにならないよう繋ぎ止める役割があります。ホルマリン固定の時間が不十分な場合、途中でバラバラになって失敗することがあるので注意しましょう。

(2)試料の皮剥ぎ

 薬品による筋肉の透明化では、表皮やうろこが邪魔になります。あらかじめピンセットやメスで、皮を剥いでうろこを取っておきましょう。

 

 この作業はホルマリン固定前にしてもよいのですが、固定後の方がやりやすいようです。そこまで神経質にきれいにする必要はありません。魚の場合、一緒に胸びれなどを取ってしまわないように注意しましょう。

(3)試料の脱水

 試料を50%エタノール、100%エタノールの順番に入れます。メダカの場合それぞれ1日ずつは入れておきましょう。

 

 固定の次は軟骨の染色をしていくのですが、このとき試料の中に水が残っているときれいに染色することが出来ない可能性があります。そこで、試料中の水分をエタノールに置換していく脱水作業を行います。置換は一気に行うのでなく、50%、100%と順番にしていくのがポイントです。

(4)軟骨の染色

 氷酢酸:エタノール=3:7の混合溶液を作り、そこにアルシアンブルー8GXを適量加えて軟骨染色溶液とします。
 この軟骨染色溶液に、脱水した試料を1日程入れておきます。試料全体が青く染まったら十分だと思います。
 なお、アルシアンブルー8GXの量はほんの少しで十分です。御船高校では水溶液になったものを使用していますが、混合溶液100mLにつきアルシアンブルー溶液1mLを目安にしています。

 

 アルシアンブルー8GXという薬品は、軟骨中のコンドロイチン硫酸という物質と結合して、軟骨を青く染めます。染色後は軟骨以外も染まっているように見えますが、以降の操作で消えていきますので安心してください。気になる場合は、50%エタノール、100%エタノールにそれぞれ半日ほどつけることで、不要な色が落ちていきます。

(5)試料の中和

 四ホウ酸ナトリウム飽和水溶液を作り、そこに軟骨染色が済んだ試料を1日程入れます。



 軟骨染色の次は、筋肉をつくるタンパク質を酵素で分解して透明にしていくのですが、このとき使用する酵素のトリプシンが働くには弱アルカリ性にする必要があります。軟骨染色溶液は酸性のため、染色後の試料は酸性になっています。そこで、四ホウ酸ナトリウムを使って試料を中和してやるのです。

(6)酵素によるタンパク質の分解

 四ホウ酸ナトリウム飽和水溶液:水=3:7の水溶液にトリプシン(乾燥粉末)を適量加えてトリプシン溶液を作ります。
 このトリプシン溶液に中和した試料を1~数日入れておきます。このとき、水温を38~50℃に保ちます。恒温機に入れておくのがよいのですが、御船高校にはないので、恒温水槽(ウォーターバス)を利用して水温を保っています。
 ときどき様子を見て、大体背骨が見えるくらいになったら引き上げましょう。トリプシン溶液が汚れたら、新しいのに変えた方がいいかも知れません。
 なお、トリプシンの量は水溶液100mLにつき約1gが理想ですが、少なくても大丈夫です。メダカの場合、100mLにつき0.3gも入れれば、48℃なら1日で十分透明化が進みます。

  

 筋肉の透明化、透明骨格標本作製の肝の部分です。タンパク質分解酵素であるトリプシンにより、筋肉をつくるタンパク質を分解していきます。あらかじめホルマリンにより固定しているため、分解が進んでも形はそのまま残され、透明化していくのです。しかし、形が残るとはいえ、分解により試料は非常にもろく崩れやすい状態になっています。これ以降は、最善の注意を払って取り扱うようにしましょう。
 試料の大きさ、酵素の量、水温などで所要時間が変わってきます。定期的に様子を見て、ベストなタイミングをはかりましょう。なお、以降のステップでも透明化は進んでいくため、ここで完璧に透明にする必要はありません。だいたい透明になり始めたぐらいで良いと思います。

(7)硬骨の染色

 0.5%水酸化カリウム水溶液にアリザリンレッドSを適量加えて、硬骨染色溶液とします。
 この硬骨染色溶液に、トリプシン溶液から取り出した試料を半日~1日程入れます。これにより、硬骨が赤く染まります。
 なお、加えるアリザリンレッドSは極少量で十分です。耳かき一杯分も入れればよいでしょう。



 アリザリンレッドSという薬品は、金属イオンと結合すると紫色から赤色に変わります。硬骨にはカルシウムイオン(金属イオンの一種)が含まれているので、アリザリンレッドSはこのカルシウムイオンと結合して、硬骨を赤色に染めます。

(8)透明化の促進

 硬骨を染色した試料を、0.5%水酸化カリウム水溶液に入れます。透明化の様子を見ながら半日~2日程入れます。硬骨染色溶液の余分な色などがついていた場合、ここで取りましょう。

 

 筋肉の透明化(タンパク質の分解)には、酵素を使う以外にも水酸化カリウムを使う方法などがあります。水酸化カリウム水溶液につけておくことにより、透明化がさらに進んでいくことになります。

(9)グリセリンへの置換

 次の順番で試料中の水分をグリセリンに置換していきます。

(1)0.5%水酸化カリウム水溶液:グリセリン=3:1の混合溶液に1日~3日入れます。
(2)0.5%水酸化カリウム水溶液:グリセリン=1:1の混合溶液に1日~3日入れます。
(3)0.5%水酸化カリウム水溶液:グリセリン=1:3の混合溶液に1日~3日入れます。
(4)100%グリセリンに1日以上入れます。

  

 グリセリンは光の透過性が高いため、試料中にグリセリンを浸透させることで光が通りやすくなり、より透明に見えるようになっていきます。紙を油に浸すと向こう側が透けて見えるのと同じ理屈です。
 グリセリンの量を少しずつ増やして数段階に分けて置換していき、最終的にはグリセリンの中に試料を入れる形になります。なお、この間にも水酸化カリウムが作用するので、タンパク質の分解は進んでいきます。

(10)封入

 スクリュー管などの封入容器に100%グリセリンを入れ、そこにチモールを少量(1~2粒)入れます。そこに試料を入れて封入します。


メダカ Oryzias latipes (2010年8月製作)

 最後はスクリュー管などに封入して完成です。チモールは防腐剤として働きます。骨格標本として利用するなら、ちゃんとラベルを用意しましょう。ラベルには試料採集日、採集場所、採集者、生物名(和名)、学名、分類などを書くのが一般的です。

 これで透明骨格標本の完成です。

 なお、説明にある時間はすべてメダカの場合です。それより大きい標本の場合、もっと時間がかかると考えてください。

 例のメダカは少し硬骨の染色が濃すぎるような気もしますが、上手くできれば赤と青がきれいに映える標本になります。最初は失敗することも多いと思いますが、何度かやっている内に時間配分などが分かってきますので、試行錯誤して頑張ってください。