校長室からの風

2年ぶりの同窓会入会式

 2月下旬になり熊本県の新型コロナウイルス新規感染者が減少し、最近は0の日が多くなりました。喜ばしいことです。2月28日(日)、3年生が登校し、体育館で表彰式、卒業式予行、そして同窓会入会式が行われました。昨年は新型コロナウイルス感染者の急速な拡大を受け、同窓会入会式を中止しましたので、2年ぶりの開催となります。

 同窓会からは徳永明彦会長をはじめ6人の役員が来校されました。徳永会長は挨拶で、生徒たちに祝意を伝えられるとともに世の中に出ることの覚悟を語られました。

 「皆さんは、これまで学校で答えのある問題に取り組んできました。しかし、世の中には、答えのない問題がいっぱいあるのです。それをどう解決していくのかが大事なことです。問題に直面した時は、とにかく考える、前向きに考えることです。」

 徳永会長の言葉は生徒たちの胸に響いたと思います。

 続いて表彰が行われました。最初に天神賞(同窓会賞)が徳永会長から1組の井上さんに贈られました。天神賞は、学業成績が優秀で他の生徒の模範となるような努力をしてきた生徒に毎年贈られています。そして次に、特別奨励賞が3組の見﨑さんに贈られました。車いすで学校生活を送ってきた見﨑さんは、勉強とパラスポーツの両立に励み、卒業後もパラアスリートとしての活躍が期待されています。同窓会の皆さんの応援の表れだと思います。

 新型コロナウイルス感染予防の観点から、同窓会入会式はこれまでより短い時間で簡素に行われました。しかしながら、この秋、創立100周年を迎える節目の時に、コロナ禍の中、2年ぶりの同窓会入会式を実施できたことは意義あるものだったと思います。

 同窓会入会式が終わり、帰られる役員の方々が玄関で足を止められました。玄関ホールに掲げられている書道部3年生4人による卒業作品に見入られました。縦が約2m、横が約4mの大きな木枠に紙を貼り合わせ、朱、青、黄の色も散らし、生徒たちが考えた言葉が力強く墨書されています。

 「災禍の日々から学んだ 

  思いやりの行動  労いの気持ち  他者への配慮

  逆境を越え  新天地へ

  人生を切り拓く」

 明日、3月1日は卒業式です。

  

 

最後まで「受験生」

 2月に入り3年生は家庭学習期間に入りました。進路が確定した生徒は登校の必要がなくなり、自動車学校へ通ったり、自宅で進学先からの課題に取り組んだりして過ごしていることと思います。しかし、そのような中、大学受験に挑む一部の生徒たちは登校し、職員の指導を受け続けていました。先般、電子機械科の男子生徒が熊本大学工学部を推薦入試で合格を勝ち取るなど好結果が出ています。そしてまだ4組(芸術コース)の美術専攻の3人の女子生徒たちが毎日登校しています。

 3人の生徒たちは午前9時前後にそれぞれ登校し、体操服に着替え、特別教室棟1階の美術室でデッサン等に励みます。モチーフは美術の先生が設定することもあれば、生徒自分たちで作ることもあります。石膏像や果物、コンクリートブロックなど様々なモチーフが日替わりのように変わっています。昼休みをはさみ午後3時過ぎまでおよそ6時間、ひたむきに鉛筆、絵筆を動かし続けます。

 時折、私はこの部屋を訪ねてみます。邪魔してはいけないと最初は黙って見守っていますが、「集中力は30~40分が限界です」と言って生徒たちは各自で休憩をとるので、その時に対話します。3年間を振り返って、また将来の夢などを率直に語ってくれます。

 「コロナで臨時休校の期間は、自宅で絵を描いたり、粘土でモノづくりを楽しんで過ごしました。」

 「3年間、マイペースに好きな美術が学べました。御船の芸術コースに来て良かったなあと思っています。」

 「今が最も自由を感じます。」

 実は3人のうち2人は先週、受験を終え、結果待ちの状態です。もう1人の生徒は来週25日に国公立前期日程で受験予定です。受験は、結果を待つ間が最も不安な時期です。一人の生徒は特に不安を口にします。試験会場で他の受験生の作品が見え、その技量の高さに驚いたそうです。3人とも、希望と不安が混在した時間を一緒に過ごしているのです。先に受験を終えても、全員の受験が終了し結果が出るまで、3人とも美術室で絵を描き続ける気持ちでいます。それぞれ目標は異なっていても、同志としての強い結びつきを感じます。

 「人間は努力する限り、迷ったり不安になったりするものだよ。迷わぬ人間は怠惰な人間だと言えるよ。」と私は3人を励ましました。

 芸術コース(4組)は3年間メンバーが不変で、喜びも苦しみも連帯してきました。その連帯感を力に、3人は最後まで「受験生」であり続けています。

 

 

町の「記憶」を訪ねて ~ 変わりゆく風景のなかで

 久しぶりに御船川の南側(左岸)の本町通りを歩く機会がありました。現在の御船町は川の北側(右岸)が中心で、役場、警察、消防、小・中学校、大型商店等が集まり、コンパクトタウンの姿を見せています。御船高校もここにあります。しかし、昭和の中頃までは、御船川の南に沿った本町通りが、白壁の商家が立ち並び繁栄していたところです。この「校長室からの風」でも紹介した江戸期の豪商の林田家邸宅跡(現「まちなかギャラリー」)、明治期創業の池田活版印刷所など往時の賑わいが偲ばれる建物が残っています。

 今回は本町通りを上流方面へ歩き、御船川に架かる「思い出橋」を訪ねました。ここにはかつて美しい姿の2連アーチの石橋が架かっていました。江戸後期の嘉永元年(1848年)建造の御船眼鏡橋です。当時の町人たちの寄付によって造られました。「あの眼鏡橋が残っていたらなあ」と年配の御船高校同窓生の方々が今でも懐かしまれます。昭和63年(1988年)の水害で惜しくも流失してしまい、そのモニュメント(記念碑)が「思い出橋」のたもとに設置されています。

 また、「思い出橋」のすぐ近くに木造平屋建てで瓦葺(かわらぶき)の重厚感のある建物が残されています。ここが明治時代の旧裁判所庁舎です。明治期、熊本県内に9か所設置されたものの一つで、明治28年(1895年)に建造され、その後、御船簡易裁判所となり昭和46年まで使われました。今も公民館として現役の建物であり、国の登録有形文化財の指定を受けています。現在の御船町には簡易裁判所・家庭裁判所の出張所があるのみですが、かつては上益城郡の拠点として裁判所庁舎が置かれていたのです。

 昭和の前半までは木材をはじめ物資の流通に舟運が大きな役割を果たしました。従って、御船川沿いに商家や造り酒屋が軒を並べ本町通りが町のメインストリートでした。しかし、自動車の急速な普及(モータリゼーション)によって、交通・運輸の体系が変わり、町のあり方にも影響を与えました。昭和51年(1976年)に九州自動車道の御船インターチェンジ(IC)開設はその象徴的出来事と思います。本年4月オープンを目指し、御船IC近くに外資系の大規模商業施設の建設工事が大詰めを迎えています。店舗面積1万㎡、駐車台数は約800台という破格の規模です。また御船の景色は変わるでしょう。

 今も昔も御船は交通の利便に恵まれています。従って、町は変化しつつ発展していくのは定めです。しかし、変わりゆく中で、町の「記憶」とも呼ぶべき遺産を大切にしなければならないと思います。歴史の厚みがある町は何か懐が深く、生活をしていて情緒を感じます。

 

「ロマンです!」 ~ 電子機械科「課題研究発表会」

 3年生の学年末考査、通称「卒業試験」が1月27日(水)に終了しました。これで3年生は家庭学習期間に入るのですが、電子機械科の3年生は翌日も登校し、この1年間取り組んできた課題研究の発表会に臨みました。電子機械科の「課題研究」は生徒たちがそれぞれ班をつくり、各班で課題を設定し、担当の先生の指導を受けながら研究実践を行うものです。教育課程上は、2単位(週2時間)ですが、放課後や長期休業中にも自主的に活動してきました。

 会場は第5実習棟フロア。電子機械科3年A、B組それぞれ6班が持ち時間12分で発表し、質疑応答の時間もあります。先輩の発表を2年生が聴きます。

 今年の課題研究の主流は、プログラミングに関連したものとなりました。これは本校電子機械科の教育で重視していることであると共に、今の社会のトレンドとも言えます。人型ロボットPepper(ソフトバンク社から貸与中)に搭載する小学校英語学習用プログラムに挑んだ班。マイコン(マイクロコンピュータ、超小型コンピュータ)に独自のプログラミングを施しコース情報をセンサーで検知し走行するマイコンカーを改良していく班。人の操縦を必要とせず周囲の状況をセンサーで読み取り動く自立型ロボットを開発する班。体験入学する中学生に向けて楽しいプログラミング体験教室を準備した班。いずれも班員の力を結集して、トライ&エラーの連続だったプロセス(過程)が伝わってきました。

 このような中、モノづくりの原点を考えさせるユニークな発表が二つありました。A組のある班は、校内で故障しているモノ、放置されているモノの修理や解体の依頼を職員から受け、それに次々と取り組んだのです。故障した大型扇風機やリヤカーを修理しました。また運動場の老朽化した防球ネットをガス溶断で解体しました。これらの修理や解体は外部の事業者に委託すると多額の費用が掛かるものですが、生徒たちの学習活動の一環として学校自前で対応できました。また、B組のある班は、手作りの真空管アンプを製作しました。骨董品のイメージさえありますが、電極が入った中空の管である真空管を用いたアンプ(増幅器)は、半導体(トランジスタ)のアンプに比べ、温もりのある音が出ると今も根強い人気があります。「なぜ、敢えて真空管アンプを作ったのか?」という職員からの質問に対し、班員の生徒が「ロマンです。」と答え、会場は沸きました。

 卒業に向けての電子機械科独自の大事な行事が終わりました。3年生による課題研究発表は、後輩諸君(2年生)の探究心にきっと火を点けたことでしょう。

                  手作りの真空管アンプ

前期選抜の受検生の皆さんへ

 2月1日(月)、御船高校では前期選抜検査を行います。熊本県の公立高等学校では前期と後期の2回、選抜検査が行われることになっており、前期では各校独自の特色ある選抜検査を実施します。本校では、普通科芸術コース及び電子機械科でそれぞれ実技検査と集団面接が行われます。

 今年も前期選抜で多くの受検生の皆さんが御船高校を志望してくれています。音楽、美術・デザイン、書道の芸術分野に興味、関心を持ち、自分の「好き」や「得意」をもっと伸ばしていこうと志望してくれた受検生。また、モノづくりに興味、関心を持ち、モノづくりを通して知識や技能を身に付けていきたいと意欲ある受検生。皆さんの志に敬意を表します。そして、皆さんに「選ばれた学校」であることに私たち教職員は誇りを覚えます。

 受検生の皆さんにとって高校入試は不安と緊張の体験になるでしょう。今年は誰もが経験したことのない新型コロナウイルスのパンデミックの中、例年の受検生よりもその不安は大きいものと思います。先ずは、体調を整えること、これが受検生の皆さんに求められます。特別なことをするのではなく、日常生活を維持し、いつもの体調で試験当日に臨んでください。

 受け入れる側の私たちは、受検生の皆さんが安心して力を発揮できる環境づくりに努めています。様々な場所にアルコール消毒液を準備しておきます。検査室の清掃や除菌を徹底します。検査会場の換気にも気を配ります。発言する職員はマスクの上にフェイスガードも重ねて着用する予定です。

 試験当日、緊張した表情の皆さんをできることなら笑顔で迎えたいと思っています。しかしながら、試験を実施する私たちも緊張する日なのです。笑顔までは無理でも、努めて柔らかい表情で対応したいと心がけています。御船高校を志望してくれたことに感謝の気持ちを持ちながら。

 御船高校の正門を入ると前方に樹木の茂った一画が見えます。ここが「天神の森」と呼ばれる場所です。校歌にも登場する、本校の象徴(シンボル)と言うべきところです。中心にそびえる樹齢400年と伝えられる楠の巨木は冬でも青々とした葉を茂らせています。御船高校生はこの天神の森に見守られ学校生活を送っています。受検生の皆さんも、試験当日、天神の森と対面して、深呼吸をしてください。きっと落ち着き、「やるぞ」と力が湧いてくることでしょう。

 皆さんが入学する来年度、本校は創立100周年を迎えます。

 春、「天神の森の学び舎」で皆さんを待っています。