校長室からの風

御船高校、2学期への船出

 8月24日(月)、御船高校の2学期の始まりです。今回もまた全校放送で表彰紹介及び2学期始業式を行いました。表彰では、男子弓道部、男子バレーボール部、書道部、吹奏楽部の活躍を紹介しました。吹奏楽部は、お盆休み中に実施された県吹奏楽部大会吹奏楽コンテスト高校の部で金賞を受賞しました。新型コロナウイルス感染者が熊本県で増加する中、県立劇場で吹奏楽の大会を実施できたこと自体に私は注目しています。感染対策に最大限の努力をして、高校生のために区切りの演奏会を実現したいという関係者の熱意に敬意を表したいと思います。吹奏楽部の皆さんにとって完全燃焼のステージとなったことでしょう。

 今年の夏は、故郷への帰省の自粛が呼びかけられた異常な夏でした。これまで当たり前にできていたことが、当たり前にできない不自由な夏でした。しかし、そのような社会不安と自粛の風潮の中にあって、2020甲子園交流試合が実現されたことに感銘を受けました。春のセンバツ大会に出場予定だった全国32校のチームを甲子園球場に招き、それぞれ1試合だけ行われ、夢の舞台でのはつらつとした高校球児の姿がテレビ中継されました。未曽有のコロナ禍にあって、リスクと向き合いながら、どんなことが可能なのかに挑戦した大きな実践だったと思います。この甲子園交流試合の実現に励まされた教育関係者は多いでしょう。

 高温多湿のわが国の夏の気候において、新型コロナウイルス感染の第二波に覆われました。従来のコロナウイルスの常識が通用しません。熊本県でも連日二桁の感染者が発表され、「レベル4特別警報」(最も重いレベル)が維持されています。このような中、御船高校の2学期は始まりました。私は改めて生徒の皆さんに、手洗いの励行を呼びかけました。最も基本的な対策であるこまめな手洗いでウイルスと不安を洗い流してほしいと思います。本来、学校は、生徒同士が密接、密集しがちな所です。生徒の皆さん一人ひとりがそれを意識して防ぎ、手洗いとマスクの着用で感染リスクを小さくしていく必要があります。

 未知のウイルスとの共存は、私たちにとってこれまで経験したことがない学校生活を新しく切り拓いていくことになります。困難が予想されます。しかし、2学期始業式後の新生徒会長挨拶で、2年の村田君が「感染防止に留意しながら、学校行事を充実させていきたい」と力強く抱負を述べてくれました。生徒の皆さんの新しい発想(アイデア)と工夫を期待しています。

 甲子園交流試合や県高校吹奏楽コンテスト等の成功例を追い風として、御船高校は2学期という広い海に船出します。

 

弥生人の顔が付いた土器 ~ 御船高校の「お宝」

  「貴校が所蔵されている人面付き土器を見せてください」と先日、益城町教育委員会の文化財担当の職員の方達が来校されました。来年で百周年を迎える御船高校には大切に伝えられている「お宝」が沢山あります。最もよく知られているのが、旧制御船中時代以来、輩出してきた画家の皆さんの作品ですが、実は、この「人面付き土器」(弥生時代)も「お宝」の一つと言えます。何より古さが違います。

 「人面付き土器」は、本校玄関脇のケースで大事に保管、展示しています。ケースから慎重に取り出し、益城町教育委員会の学芸員の方たちと丁寧に観察しました。高さは23cm、幅は土台部分で10cm、土器が作られた時代は弥生時代後期の2世紀と考えられています。この土器の最もユニークなところが、顔が付いていることです。残念ながら、発掘された時に顔の大部分は壊れており、五分の四ほどは石膏で補修、復元されています。しかし、その顔は、まぎれもなく今から千九百年ほど前の弥生人のはずです。目は細く、鼻は高くなく、全般的に扁平で、穏やかで優しい印象を与えます。

 昭和50年代、益城町の秋永遺跡で県教育委員会の発掘事業として採取され、歴史教育の教材として最も近くの県立高校である御船高校へ寄贈されたという経緯があります。当初は、土偶(どぐう)ではないかと思われたようです。土偶は、縄文時代に作られた人形で、女性像が多く、豊穣を願うための呪術的なことに使用されたと考えられています。しかしながら、この「人面付き土器」は土器の特徴から見て、縄文時代の次の弥生時代(紀元前3世紀~紀元3世紀)の後期と推定されています。

 弥生時代の「人面付き土器」にしばしの間、見入っていました。顔及び胴体の前面には重弧文(じゅうこもん)と呼ばれる同心円の文様がほどこされています。弥生人の習俗である入れ墨の文様かもしれないとの意見が出ました。全体的にはふっくらした丸みをおび、土偶の系譜と同じ女性像のように見えます。また、背面は割れ目があり、ひょっとして酒などを注ぐ注口(ちゅうこう)土器として使用された可能性もあるとのことです。弥生時代は、縄文時代までの石器に加えて金属器が使用され、北部九州から稲作農業が広まっていきました。社会が大きく変化する中で、この「人面」のモデルとなった弥生人は上益城の地でどんな生活を営んでいたのでしょうか?

 「このような人面が付いた弥生時代の土器はきわめて珍しく、貴重」というのが益城町教育委員会の学芸員の方たちの総括でした。

 生徒の皆さん、私たちのご先祖に当たるかもしれない弥生人のお顔を見に来ませんか。

 

中学生の皆さん、ようこそ御船高校へ ~ 「中学生体験入学」

   中学生の皆さん、御船高校へようこそ。

 8月6日(木)、7日(金)の二日間にわたって御船高校「中学生体験入学」を開催しました。新型コロナウイルス感染に対応するため、6月から慎重に開催のあり方を検討してきました。昨年までのような体育館での全体説明会及び校内見学等をやめ、二日に分け、一定の人数ごと、各教室等での分散開催の形式で臨みました。

 一日目は、普通科(特進クラス、総合クラス)希望者対象です。朝、8時半から9時までが受付ですが、体育館で吹奏楽部が歓迎演奏を行い、多彩な音楽が校庭に響き渡りました。参加者は最初から6教室に分かれ、その教室ごと学校全体の紹介、特進クラス、総合クラス、2年生の「総合的な探究の時間」の成果発表等を担当の生徒たちが行いました。主に2年生が務めてくれたのですが、とても頼もしく思いました。自分の高校生活が充実していなければ、これから進路を決める中学生に対して、責任もって説明できません。御船高校の特進クラス、総合クラスの特色を語り、その良さを本気で伝えていることが感じられました。

 二日目は、芸術コース(音楽、美術・デザイン、書道)と電子機械科の希望者対象です。前日に引き続き参加した中学生もいました。一日目の普通科(特進クラス、総合クラス)の場合は説明中心で、受け身の体験入学でしたが、二日目は中学生自らが活動する能動型の体験入学となりました。特に、音楽専攻は、ピアノ、木管楽器、金管楽器、打楽器、声楽と専門別に会場も分かれての体験レッスンで、教師と音楽専攻の高校生がサポート役として付きました。同じ専攻楽器の高校生から優しく指導を受け、時に一緒に演奏する光景はとても微笑ましく、音楽を愛好する者同士のつながりがあちこちで生まれたようです。

 また、約80人あまりが参加してくれた電子機械科の体験入学では、6班に分かれ、電気配線、エンジン起動、旋盤・溶接、自動工作機械、電子制御(ロボット実演)等の体験コーナーをローテーションで回りました。恐らく多くの中学生にとって初めて見学、体験する施設、設備ばかりだったと思います。強い興味、関心を示す一方、不安に感じる者もいたでしょう。しかし、案内係及び実演担当の電子機械科の2、3年生が「最初はできなくても、みんなわかるように先生方が教えてくれるから大丈夫だよ」などと声をかけ、丁寧に接する姿勢が印象的でした。彼らにとって、見学する中学生は2、3年前の自分だということがわかっているのでしょう。

 二日間でおよそ280人(延べ人数)の中学生が来校してくれました。本校にとっても誠に教育的意義のある二日間でした。中学生との交流を通じて、本校生が大きく成長する機会となったからです。

    御船高校は来週はお盆休み(学校閉庁日)で、学校全体、静かになります。

 

変わらぬ姿、「天神の森」

 7月30日の梅雨明け以来、猛暑が続いています。加えて、新型コロナウイルス感染がとまらず、熊本県でも感染者が増加し、不安感が漂っています。先日、御船町役場を訪ねた際、隣接する「恐竜博物館」入り口前に立つ大きなティラノサウルス像(オブジェ)にマスクが掛けられていたのが目を引きました。恐竜もマスクをする異常な夏です。

 朝から陽射しは強くうんざりする毎日ですが、出勤し、学校の玄関に向かって歩くと、御船高校のシンボルである「天神の森」が迎えてくれます。樹齢400年を超える楠の巨木を中心に樹木が鬱蒼と茂る一角の脇を通る時、ひんやりした微風が感じられ、木陰の涼しさに気持ちが落ち着きます。樹木から出る香りには人の神経をリラックスさせる成分があるそうです。森林浴、森林セラピーは健康に効果があるということで都会人に人気だと聞いたこともあります。「天神の森」は森林という規模ではありませんが、樹木の緑、木洩れ日、木々を通り抜ける風、清浄な雰囲気と、私たちの気持ちを静め、なにか心身を癒してくれる力があるように思えます。このことは、本校にとってかけがえのない教育環境と言えます。

 「天神の森」は四季折々のたたずまいに情緒がありますが、私は真夏の姿に最も心惹かれます。特に、新型コロナウイルスで社会全体が疑心暗鬼の状況にある今年の異常な夏にあって、長い歳月、変わらずこの地にある姿が私たちに安心感を与えてくれます。伝承では、16世紀の後半の戦国時代、御船城を守る聖なる森の一つとして設けられたのが起源とされています。大正11年(1922年)の開校以来、生徒たちを見守り続けきた守護神のような存在です。

 ところが、「天神の森」もかつて危機に瀕したことがあるのです。昭和40年代後半から中心の大楠の樹勢が衰え、保護の取り組みが幾度も行われましたが、平成に入り台風の被害も受け枯死寸前の状態になりました。そこで、平成13年に大掛かりな「大手術」が実施されたのです。大楠をクレーンで吊り上げ敷地の排水処理をして、良質の土壌に入れ替え、さらに根元の土のかさ上げを行いました。これによって大樹は蘇生し、今日に至っているのです。

 「天神の森」は大楠の根の保全のために、普段は敷地内への立ち入りを制限しています。しかし、8月5日(水)の朝、教職員有志20人ほどが「天神の森」内に入りました。繁茂した雑草の除草作業のためです。日向の気温は30度を超えていましたが、「天神の森」の中は涼しく、潤いがあり、作業していて気持ちが休まるような感覚に包まれました。明日、明後日と中学生の皆さんを招いての「御船高校体験入学」を開催します。

 本校は「天神の森の学び舎」です。「天神の森」に手を入れ、より美しくなった姿で中学生を迎えて欲しいというのが私たち教職員の思いです。

                 「天神の森」内での除草、清掃活動

1学期の終業式を迎えて

   7月31日(金)、御船高校は1学期の終業式を迎えました。前日、梅雨明けが宣言されたばかりですが、一気に真夏となり、気温は35度の猛暑日です。前庭の「天神の森」からは蝉時雨(せみしぐれ)が聞こえます。

 終業式は、午後1時半から全校放送形式で実施しました。生徒の皆さんはそれぞれのホームルーム(教室)で聴きます。最初に、「令和2年7月豪雨災害」によって犠牲となられた方々のご冥福を祈り、全員で黙祷を捧げました。

 そして、校長講話。1学期を振り返ると、社会も学校も新型コロナウイルス感染の影響で未曽有の混乱の日々だったと思います。パンデミックと呼ばれる世界的流行が今も続いています。連日、わが国の新規感染者の数値が発表されていますが、異常な出来事であるのにも関わらず、それが数か月続くと、異常に感じられず新型コロナウイルスと共にあるのが日常のように思えてきます。

 目に見えないウイルスへの対策は困難で、誰もが感染する可能性があります。感染者に対して偏見や悪意のまなざしを向けてはいけません。誰も悪くないのです。私たち全員が逃れられない災難に巻き込まれていると考え、支え合い、もうしばらく辛抱していきましょうと生徒の皆さんに呼びかけました。

 わが国全体が新型コロナウイルスによって翻弄されていることに加え、私たちの熊本県は豪雨災害にも襲われました。令和2年7月豪雨災害において、県南部では記録的な大雨に見舞われ、球磨川をはじめ河川の氾濫、土砂崩れ等が発生し、多くの人命が失われ、家屋が流され、道路や鉄道が寸断されました。災害発生から3週間余り立ちましたが、いまだ被災地では復旧が進んでいないと言われています。しかし、その中にあって、被災地の高校生たちが汗だくになって泥をかき出し、流木や水につかった家具などを運ぶ姿が伝えられています。若い力が復旧活動に加わることで、被災地の人たちを元気付けることになります。本校の生徒会有志も明日、被災地の一つである相良村へボランティア活動に赴きます。

 校長講話に続き、生徒会長の田中さん(3年B組)の退任挨拶がありました。田中さんは入学してすぐに生徒会執行部に入り、2年次に生徒会長に立候補して当選し、会長として重責を果たしてきました。田中さんは、生徒会活動を通じて多くのことに気づき、自分自身も変化して成長してきたと述べました。本日をもって新会長の村田君(2年1組)にバトンを渡し、自らの進路実現に挑みます。3年生にとってはいよいよ進路の夏が始まるのです。

 未知のウイルスの脅威、自然災害の爪痕と不安に満ちた社会ですが、御船高校は1学期を終え、次の課程へと一歩踏み出します。

                                                                 教室で黙祷する生徒たち