新転任者研修の取組 1 はじめに   新転任者研修は、視覚障がい教育に関する基礎的な知識を学び、併せて実践力を身に付けることを目的として、実際の教育活動を円滑に遂行できるような研修として実施している。新転任者を対象とした研修は、以前から1学期の始業式前の春休み期間に集中して行っている(点字の読み書きや弱視児の見え方と配慮事項等)が、それら視覚障がい教育の基礎・基本の内容を踏まえて、週に1回のペースで実施した。なお、新転任者に限らず、内容を学び直したり確認したりしたい職員は、誰でも参加できる。   2 研修の内容と取組 @ 4/12 (木) 点訳の基礎・基本@・点訳文書印刷   パソコン持参での研修。Wordや一太郎で作成した文書をテキストファイルに変換し、「お点ちゃん」または「ibukiTen」を使用して点訳。MBDEditで点訳印刷まで行った。 A 4/25 (水) 点訳の基礎・基本 A  点字の表記について「私『わ』」「学校『え』」と発音通りに表記することや、「う」で伸ばす音は長音記号を使用することなどを学んだ。また、分かち書きについては、15問ほどペーパー問題を用意し、間違いやすい分かち書きについて説明を行った。 B 5/2 (水) 点訳の基礎・基本B  試験問題の点訳の際のポイントや回答の書き方について (詳細後述) C 5/10 (木) 触察教材の作成@   パソコン持参で、エーデルを用いての図形や文章の作成について実践しながら学び、印刷まで行った。 D 5/17 (木) 触察教材の作成A  立体コピーを用いた教材の特徴や作成手順、注意点について 学び、実際に教材を作成した。  また、3Dプリンタでの教材作成について学んだ。E 5/23 (水) 触察教材の作成B  サーモフォームを用いた教材の特徴や作成手順、注意点について学び、実際に教材を作成した。 F 5/31 (木) 日常生活の指導/衣服の着脱と管理/持ち物の整理・整頓  本校卒業生で、点字使用の職員による講話を行った。自分の持ち物がなくならないよう、鈴やクリップで印をつける癖をつけることなど、自ら生活の中で工夫をしている話があった。 G 6/7 (木) 教育的視機能評価の方法  遠距離視力評価、近距離視力評価について学んだ。また、ランドルト環単独視標や、森実ドットカード、テラーアキュイティーカードを使用して、実技を行った。 H 6/14 (木) 理療科の概要  理療科主任より、理療科の学習内容や、国家試験対策、卒業後の進路について話があった I 6/21 (木) 図書について デイジー図書 サピエ図書館 各種図書の紹介  図書司書より紹介があり、デイジー図書については、本校図書室にあるものを実際に使用しながら紹介があった。(詳細後述) J 6/28 (木) マウスを使わないパソコン操作  キーボード操作のみで行うパソコン操作について、理療科教員より講義と実技を行った。 K 7/5 (木) タブレット等の操作について  iPad、iPhoneのvoice overの機能を実際に使いながら操作の実技を行った。 L 7/12 (木) 弱視/視覚補助具の選定  視機能評価ができていることを前提に、遠用レンズまたは近用レンズを選定する方法について学んだ。実際に本校が所有する遠用レンズや近用レンズ、拡大読書器などを体験した。 M 7/23 (月) 歩行指導/実地歩行 白杖の持ち方や、2点法や3点法、スライド法などのタッチテクニックを確認した後、本校の寄宿舎から校舎までの誘導ブロック上を実際にアイマスクをして白杖を使って歩いた。 3 具体的な取組の内容 (1)点訳の基礎基本B試験問題の点訳の際のポイントや回答の書き方について    ア 試験問題の点訳について   (ア)見出しについて  見出しは、本文との違いを明らかにするため、行頭を下げて書き表す。2マスを1単位として、大きな段階の見出しほど、下げてその序列を明らかにする。  見出しが1行に入らない時は、2行目以下は1行目より2マス下げて書き表   (イ)試験問題の点訳でポイントとなること  ・該当する箇所の探しやすさ  ・指示の的確さ  ・わかりやすいレイアウト   (ウ)大問番号、問題の指示文、問題文、設問、選択肢の順に並べるようにする。   (エ)指示文を明確に書く。    ・墨字での「上・下・右・左」などの位置を示す言葉を適切に書き換える。   (オ)図表を挿入するとき  ・「下の図を見て」→「〜ページの図を見て」   図の検索を容易にできること、図を参照しながら問題文を解いていけるように。  ・同一ページ内の場合は仕切りとして、表上に!ーーーー。 、 表下にりーーーろを書く。  (カ)※注を設けるとき  ・※や☆等の注は、3マス目にををを書き、1マスあけて内容を書く。  ・点字のみに特別に設ける注は、2マス目に==を書き、内容を示した後、   再び==を書いて囲む   イ 解答の書き方について  日頃から試験問題に使われる記号類の意味と使い方を指導し、解答の仕方も含めて、正式な試験問題のやり方に慣れさせておき、校内だけの約束事として取り扱うのではなく、広く行われる点字試験にも対応できる力をつけておく必要がある。     (ア)解答用紙は片面書きが基本!      裏面書きをすることによる行の重なり、採点時の見落としを防ぐため。   (イ)解答用紙が複数枚の場合は、すべての用紙にページ数を書く。  ・1枚目にのみ受験番号と氏名、あるいは教科名や学年・氏名を書く。  ・試験開始前に書き方についての指示が行われることがほとんど。 (ウ)大問番号、小問番号などに用いる記号は、問題文に用いられているとおりにする。   (エ)訂正の仕方 ・解答の途中の場合、「め」2マス以上で消し、その後ろを1マスあけて解答を書き直す。 ・後で見直して訂正する場合、別の解答用紙に「テイセイ」と見出しをつけて新しい解答を書く。この場合、どこをどのように訂正するのかを正確かつ簡潔・明瞭に示す。   (2)図書について デイジー図書 サピエ図書館 各種図書の紹介   ア マルチメディアDAISY図書  視覚障害などさまざまな要因で、印刷物を読むことが困難な人のために開発された電子書籍規格。   イ 特徴 ・画面上で絵や写真を見ながら、表示された文章が音声で読み上げられるのを聞くことができる。 ・読み上げている文書の箇所は、フレーズごとに区切られてハイライトで色が変わり、読み上げに合わせて移動していくので、どこを読んでいるのか一目で分かる。 ・利用者が読みやすいよう、文字の大きさを選ぶことができる。 ・読み上げの音声のスピードや、文字や背景の色を選ぶことができる。  マルチメディアDAISY図書は、再生用ソフトをインストールしたウィンドウズパソコンや、再生用アプリをインストールしたタブレット端末・スマートホンで読むことができる。   ウ わいわい文庫  マルチメディアDAISY図書の中でも、公益財団法人伊藤忠記念財団が制作したもの。伊藤忠記念財団は文化庁長官から指定団体として認可され、障がいのある方に情報提供をする場合に限り、著作権者の許諾を得ずに、著作物の拡大や電子化等が認められている。(著作権法37条3項による)  わいわい文庫には、再生システム(EasyReader Express)が付加されており、CDをパソコンに挿入するだけで、図書を再生することができる。ただし、障がいのある方以外に提供することや、配信・配布・販売すること、中身を改ざんすることは禁止されている。   エ サピエ図書館  日本点字図書館がシステムを管理し、全国視覚障害者情報提供施設協会が運営をしている「サピエ」のサービスの中の一つ。音声でも分かりやすいホームページから点字データ18万タイトル以上、音声デイジーデータ約7万タイトル以上がパソコンや携帯電話によってダウンロードできる。また、加盟している330以上の図書館や団体が所蔵する約66万タイトルの膨大な資料が、オンラインリクエストなどによって利用できる。  直接利用の個人会員は無料。施設・団体の会員については年間4万円の利用料がかかる。(ただし、書誌データのアップロード・ダウンロードのみで点字データ・デイジーデータなどをダウンロードしない場合は年間2万円)。ボランティア団体は年間1万円で利用できる。  ゲストページも充実しており、誰でもサピエ図書館の書誌を検索したり、地域生活情報の見出しを見たりすることができる。  本校は加盟していないため、本の借り受けは、熊本県点字図書館に申し込む。 4 反省と次年度への志向   新転任者研修は、文字通り、新任者や転任者に視覚障がい教育の専門性をいち早く身に身に着けてもらうための研修である。それだけでなく、本校の課題である「視覚障がい教育の専門性の維持・継承」のためになくてはならない研修である。毎年、研修内容についての検討が重ねられ、年々充実したものとなっており、今年度は、触察教材の作成についての研修を2回から3回に増やし、立体コピーやサーモフォームの使い方をじっくり学ぶことができるようにした。  また、3Dプリンタの実践についても初めて取り上げ、授業で活用できるヒントを数多く得られるようにした。さらに、司書と連携し、デイジー図書やサピエ図書館などについても初めて取り上げた。児童生徒が多く利用する図書資料について職員が知ることで、学習指導の専門性に幅広さと深さが加わることと期待している。   課題としては、内容はその時1回きりなので、実際の授業場面で使用することがなければ、定着させていくことが難しいことである。さらに、新転任者以外の職員の参加は、各回1人から2人程度で、参加のないときもある。専門性の維持・向上のためには、もっと多くの参加者があればよいが、参加を促す工夫が必要だと思われる。   今後も、充実した研修となるよう、内容を吟味しながら研修計画を立て、職員の専門性の維持・向上の意識を高めつつ継続して実施していきたい。