公開授業の概要 @幼小学部 1 目的  自立活動における実態に即した指導の在り方を検討し、幼児児童に育みたい資質・能力を明らかにする。 ※授業時間を特設して行う自立活動の時間における指導を中心とし、各教科等の指導においても、自立活動の指導と密接な関連を図って行う。 2 方法  校内公開授業週間を設け、幼小学部で行う全授業を公開の対象とした(行事は除く)。公開授業ではアンケート用紙を各教室に設置し、参観した職員から授業者へのフィードバックを行うことができるようにした。代表授業は、盲学校の専門性の一つである点字の指導について、授業研究会で全学部の職員と協議ができるよう、幼稚部の年長幼児を対象に行っている「点字の初期指導」とした。 3 代表授業の指導案 (1) 題材名  「よく見てさわって確かめよう」 (2) 題材について  ア 幼児観    本児は、幼稚部3〜5歳児学級に在籍する年長(6歳1ヶ月)の女児で、ペータース異常による強度の弱視である。TAC(視距離19cm)の視機能評価では、両眼の視力0.005の値が得られた。近距離単独視標での最大視認力は0.05(1.5cm,右)であった。日常生活においては、興味のあるものを眼前に近づけると、1cm程度の細かいものの色や形を答えることができる。視距離が50cm以上離れると認識が難しく、床に落ちた物を拾うときには、触覚を頼りに探す様子がある。このような視機能の状態から、将来は点字の習得が必要であると考えられる。    本児は1歳3ヶ月から本校の教育相談を利用し、3歳で幼稚部に入学した。定期的な教育相談では、発達段階に応じて光や音の刺激を使った感覚遊びや手指を使った具体物の操作などを行ってきた。幼い頃から好奇心が旺盛で、興味のあるものに自分から手を伸ばし、眼前で確かめてから両手の指先で操作する姿が見られ、生活経験も年齢と共に豊かになっている。年長の現在は、学校生活に見通しを持ち、自分で順序立てて考え、活動している。  日常生活では大変活発である一方、普段あまり接することのない人から声をかけられると恥ずかしさから急に顔を伏せる一面がある。また、以前は、人に何かをしてもらったときにお礼を言ったり、よくないことをしてしまった時に謝ったりすることができずに黙り込んでいたが、友達や教師とかかわる経験を積み重ねることにより、状況に応じた言葉づかいが徐々にできるようになってきた。   イ 題材観    幼稚部教育要領における幼児期の終わりまでに育ってほしい姿の「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」には、遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる、とある。この内容を本児の具体的な姿に置き換えると、次の3点に整理される。 ・自分たちの遊びや生活の中で必要感をもって、多い少ないを比べるために物を数える。 ・基本図形を認識し、パズルやブロックなどを組み合わせて遊ぶ。3次元の立体を組み合わせる遊びを経験し、特に視覚障害児が不得手とする空間の理解につながるようにする。 ・触察への興味や関心を高め、点字(文字や数字)の役割に気付き、読んでみようとする。  以上の3点を踏まえて題材を設定するが、幼稚部教育要領に明記されているように、単に正確な知識を獲得することを目的にするのではなく、学びに向かう意欲や態度を重視することに十分留意する必要がある。   ウ 指導観    本題材では、@数量A立体構成B点字の読み書きに必要な?両手を協応させた行たどり運動?点字のマスにおける点の位置付けの学習?事物・事象と言葉との関連?触覚による弁別学習の課題を中心に取り上げる。 点の位置付けの学習では、点字と同じ配列(縦3行・横2列)の6つに分けられた容器やリベット差しの教材を使用し、1〜6点の位置・方向・順序の関係を学べるようにする。    点字学習が可能な目安として、点字弁別カードを提示し、左端と右端の点字の形が同じか違うか、20枚以上弁別して80%以上の正答できる段階と示されている。本児は現在、点字を文字して読む前の段階として、点字の形を身近な食べ物に例え、「に(長い○○)」「い(短い○○)」「な(割れた○○)」等と言って触読している。「(うと比べて)いは縦になっている。」「にとめをくっつけたら四角になる。」といったように、触読した点字を形としてイメージすることもできるようになってきている。触った時に感じる点字の位置関係をイメージできるように、上下・左右等の位置関係を確認しながら学習を進めていく。    点字読みの方法としては、他動スライディング法を用いて、適切な触圧や触運動を確立していく。就学までに読める文字を増やすことよりも、現在の指導段階では適度な触圧で滑らかに指を動かしながら点の違いを実感できるようになることを重視して指導をしていきたい。また、事物・事象と言葉の学習では、絵カードを用いて指導を行う。絵カードは視認を目的とするものではなく、学習意欲を高めるために操作を伴った活動を行い、様々な場面での言葉の表現方法の獲得をねらいとする。   エ 展望    指で感じる点の違いに気付くという課題は、他の教材に比べると実感が得られにくく、学習に気持ちが向かないこともある。そのようなときは、無理強いをせず、操作的な活動を取り入れながら本人の学習意欲が高まるような働きかけを心がけたい。指でたどりながら点の違いを感じる素地はできているので、読める文字が増える喜びを重ね、本児の希望である『自分で絵本を読む』という夢が実現できるように、焦らず丁寧な指導を行っていきたい。 (3) 単元(題材)の目標と評価の観点   ア 目標   ・位置や方向、空間関係や数量を意識し、両手を協応させながら、さまざまな具体物を操作できる。   ・場面を想像しながら、絵カードが表す事物・事象を言葉で表現できる。   ・適度な触圧で滑らかに指を動かしながら点の違いに気づく。   イ 評価の観点 ア 知識及び技能の基礎 イ 思考力・判断力・ 表現力の基礎 ウ 学びに向かう力、 人間性の基礎 @位置や方向、空間関係や数量を理解している。 A滑らかに指で点をたどることができる。 @両手を協応させ、工夫しながら教材を操作する。 A点の違いに気づき、言葉で表現できる。 @空間関係や数量関係に興味を持ち、理解を深めようとしている。 A気付いたことを身近なことと関連づけて考えている。 (4) 学習計画   週1回の自立活動の時間に実施する。 時 学習活動 評価規準 ア イ ウ 1学期 ・形の弁別・構成・分解「形を組み合わせて枠にはめよう」 ・平面構成「枠に積み木を入れよう」 ・立体構成「大きい順にリングを入れよう」 ・立体構成「マグネットを組み立てよう」 ・点の位置付け「1〜6点のペグを入れよう」 ・線たどり「点を数えよう」 ・線たどり「空いているマスを探そう」 @ @ @ 2学期 前半 ・事物・事象と言葉「絵本を読んで答えよう」 ・平面構成「枠に積み木を入れよう」 ・立体型はめ「見本と同じようにブロックを重ねよう」 ・立体構成「マグネットを組み立てよう」 ・点の位置付け「1〜6点のペグを入れよう」 ・線たどり「空いているマスの大きさを比べよう」 ・数量「買い物ごっこをしよう」 @ A @ A @ 2学期 後半 (本時) ・事物・事象と言葉「絵カードあそびをしよう」 ・立体構成「見本と同じようにブロックを重ねよう」 ・点の位置付け「1〜6のビーズを順番に入れよう」 ・線たどり「点字迷路をしよう」 ・点たどり「点字を読んでみよう」 ・数量「買い物ごっこをしよう」 @A @ A @ A 3学期 ・事物・事象と言葉「絵カードあそびをしよう」 ・立体構成「見本と同じようにブロックを重ねよう」 ・点たどり「点字を読んでみよう」 ・線たどり「複雑な点字迷路にチャレンジしよう」 ・数量「買い物ごっこをしよう」 A @ A @ A (5) 本時の学習   ア 本時の目標   ・両手を使って適度な触圧で点線をたどり、点の違いを指で感じ取ることができる。    (知・技)  ・空間関係や数を意識し、両手を協応させながら、教材を操作することができる。   (思・判・表) ・教師の説明を聞いて、場面を想像しながら絵カードが表すものを言葉で表現でき る。(学・人)   イ 本時の展開 時間 学習活動 指導上の留意事項 備考 2分   1 導入  教材の入ったかごを用意し、始まりのあいさつをする。・姿勢を整える言葉かけをし、学習への気持ちが高まるようにする。 45分 2 展開 「絵カードあそびをしよう」 ・教師の質問に答える。 「点字を読んでみよう」 ・示された点にリベットを差す。 ・点字を両手でたどり、触読する。 「点字迷路をしよう」 ・点線を両手でたどる。 「1〜6のビーズを順番に入れよう」 ・各容器に入れるビーズの色を決め、1〜6の順にビーズをとり、ひもに通す。 「見本と同じようにブロックを重ねよう」 ・見本のブロックを確かめて、同じ形に組み立てる。 「買い物ごっこをしよう」 ・店員役になり、品物の数を数えて客に渡す。・本児にとって身近な場面を想定できるように、必要に応じて言葉を補足する。 ・本児が楽しんで活動できるようにクイズ形式で行う。 ・両手を使って適度な触圧でたどることができるよう、指の動きを支援する。 ・始点と終点を確かめてから指を動かすようにする。 ・6点の配置を確認し、位置関係を意識できるようにする。 ・必要に応じて、見本の位置を言葉で伝える。 ・色合いがはっきりしていて操作しやすい教材を用意する。絵カード トレー リベット差し 点字カード 点字迷路 縦3行・横2列の容器 ビーズ ブロック 5色の リング 缶 3分 まとめ  終わりのあいさつをし、教材をロッカーにしまう。・特に上手だったこと、がんばったことを褒め、次への意欲につなげる。   ウ 【場の設定については省略 】   エ 教材・教具(写真)   絵カード(すずき出版)    リベット差し(縦4cm、横3cm)      点字迷路      縦3行横2列の容器(縦13.5cm、横10cm)・ビーズ   オ 【本時の評価については省略】 (4) 授業研究会   ア 協議の柱   「点字を使って学ぶ幼児児童にとって必要な触察・触読のスキルについて」   イ 協議の内容   (ア)授業について ・椅子に座って学習するのも大変な幼小学部の子どもにとって、紙を触るのは本来楽しくない活動である。本を読んで分かる楽しさを感じられる段階だといいが、まだ触る楽しみが十分でない段階でできる活動は限られてくると思った。   ・子どもが楽しいと思い、達成感を味わうための工夫が必要だと思う。   ・点字学習の後に楽しい活動を入れると意欲的にできるのではないか。 ・モチベーションを上げるために、遊びの要素を取り入れるなどの工夫をするといいのではないか。   (イ)教材について ・点字の触読教材で長短を比較する場合、読んでいく流れの中で比べられるので、一 行に長短を混ぜることもいいのではないか。   ・教材一行の長さを点字用紙の横いっぱいにしてもいいと思う。 ・幼児の指にとっても、比較する(違いに気付く)にしても、隙間を少し狭くするといいと思う。 ・すぐに声かけをするなど、フィードバックが大切である。答えがすぐ分かる課題に すると意欲的に取り組めると思う。(例えばめの数等) ・左から右へのたどりが重要なので、迷路の教材では、縦の動きを少なくしたり、たどる学習では、左から右にたどった後、右から左に戻ってもいいのではないか。 ・(点字使用の職員より)立体コピーは触り心地が悪いと感じる。達成したか否かが分かりやすい、触り心地が良いものに触りたいと思う。   (ウ)点字学習について   ・人差し指をくっつけるという手の形が大切である。 ・メメの基準の上に人差し指をどれだけきちんとおけるかが大切で、それができると、上下左右の区別もわかりやすくなる。 ・ある一定の触り心地になるように、人差し指とガイドの指の角度、向き、位置を確認して指導すると良い。  ・安心してさわれる環境作り→楽しい→点字学習へつながるのではないか。  ・(点字使用の職員より)自分は親指の感覚が一番良かったので、親指で読んでいる。 ・触る体験(思わず触りたくなる工夫、抵抗感を少なくする工夫(まずは手の甲)、世界をつかむ(始点・終点を作る))と日常生活でしっかり手を使う(点字以外の活動も)ことが土台になると思う。