専門性向上研修 B重複グループ 1 概要 ・小グループで研修の構成を考える。(全員1回は発言する仕組みを) ・前月の専門性向上研修で参考文献の紹介。 ・資料は研修の2日前までにゆうnetの回覧板に載せる(資料の印刷は各自で行う)。また、事前資料を読んで参加する。 ・資料は共有フォルダに保存する。 2 年間計画 4月  全体研修(年間計画について・専門性向上研修アンケート) 5月  自己紹介、KJ法によるニーズの把握 6月 「実態把握」  広D-K式視覚障害児用発達診断検査、行動観察 7月  「発達段階に応じた指導」  教材の系統性(東京都立葛飾盲学校福田奏子先生の資料)、概念形成、ことば・かず 8月(1)「コミュニケーション」  発語のない幼児児童生徒とのコミュニケーション、コミュニケーションの育ち方 (2)「ICTを活用した重複障がい教育」  実践報告、機器の体験 10月 「コミュニケーション」  コミュニケーション障がいの生徒への指導、発達障がいを併せ持つ生徒とのコミュニケーション 11月 「疾病・障害について」  知的障がい、肢体不自由、発達障がいについて 12月 「福祉の知識」  児童発達支援、放課後等デイサービス、医療費補助、生活介護事業所、A型、B型 1月 「授業の計画・実践」  日常生活の指導について(各学部の実践報告) 2月  (1)「授業の計画・実践」  作業学習・生活単元学習について(各学部の実践報告) (2) 職員向けアンケート実施  今回は、実際の研修内容を具体的に伝えるため、8月に実施した「発語のない子どもとのコミュニケーション」及び「ICTを活用した重複障がい教育」の2つの実践について報告する。 3 取組の内容 (1)発語のない子どもとのコミュニケーション  コミュニケーションとは人間が意思や感情などを相互に伝えあうことであり、受け手と伝え手の双方がいて成り立つものである。『双方』であることがポイントである。障がいによって視覚や聴覚、身体等に様々な課題を抱えている子どもにとってのコミュニケーションは、言語だけでなく非言語的なコミュニケーション手段の活用を考えることが重要である。表情、視線、身振り、体の姿勢、具体物の提示等コミュニケーションは、意思や目的、その手段が明確なものばかりではなく、日常的には曖昧で分かりにくいことが多い。相手の立場に立って理解するように努める共感的な理解がとても大切。また、子どもの行動が意思や要求を伝達しようとした行為であると理解できても、コミュニケーション手段として適切でない場合には、できるだけ望ましい方法で意思や要求などが伝わる経験を積み重ねるよう指導する。 ア コミュニケーションの難しさ  赤ちゃんは、積極的に自分から人に視線を向けたり、物に興味を持ったりするため、自分の行動に伴って起こる、周囲の人や物の変化を学習する機会は多い。しかし、運動障がいがあれば、動きに制限があり、変化を起こしづらくなる。知的障がいがあれば、行動に伴って起こる変化の意味が分かりにくくなる。そこで、支援の中で意図的に子どもが自分の行動の意味に気付くような機会を作り出していく必要がある。 イ コミュニケーションの発達のステップ  聞き手効果段階・・・物を持ちたい、人と遊びたいという意図はあるが、それを伝える社会的、客観的伝達手段をもたない。表情や視線等の変化、姿勢や身体の動き、緊張や弛緩等に対し聞き手である大人が気づき、その意味を推測して初めて効果を生み出すレベルのコミュニケーション発達段階である。聞き手の読み取り能力により子どもの要求の実現が左右される。  意図的伝達段階・・・子どもが自分の要求や何らかの行為の実行を目的とするものを大人に伝えようとして、意図的に(結果を予想して)社会的な手段を使うようになる段階である。手段として代表的なものは、渡す、差し出す、指差す等の身振りとそれに伴った「アア」等の短い発声が挙げられる。  命題伝達段階・・・意図的伝達段階に見られた身振りや音声にことばが加わった伝達を始める段階である。「何を」「どうやって」等を具体的に伝えられるが、まだ非言語的な伝達手段を用いることが多い。  コミュニケーションの発達のステップは、障がいの有無にかかわらず、基本的には同じ道筋をたどる。ステップが進むにつれて周囲の刺激や働き掛けに対しての受け止め方は、注意⇒予測と大きく変化する。コミュニケーションの力を育てるためには、たくさんの刺激や働き掛けを積み重ねる中で、注意⇒予測⇒応答というステップを意識することが重要である。  例)注意:音が聞こえてきた(歌に注意を向ける)⇒予測:もう1回やってほしいな(予期、期待する)⇒応答:「あー(声を出してみよう)」 ウ 指導・支援のポイント (ア)子どもの表出を見逃さないために ・子どもの些細な変化を見逃さないためには、子どもの様子を漠然と見るのではなく、視点を絞って子どもの変化を細かく観察することが重要である。子どもを観察する際の視点例として表情、目線、瞬き、身体の動き、筋緊張、発声、覚醒状態、呼吸、心拍数、体温等が挙げられる。 ・やりとりを書き出した図表を作成(例:6月の研修で実施したやりとり場面分析シート等)し、会話の意図や発話の効果を見ることで、単なる動作として見過ごされていた行動に気付くなど多くの情報を得ることができる。 (イ)表出への意味付け  発達初期の段階では子どもからの表出が必ずしも意図を持つものとは限らない。例えば、「お腹が空いて泣く」という行動は、お腹が空いたことを伝えようと意図して泣く場合もあれば、お腹が空いたことによる不快で泣くこともある。「人に伝える意図の無い」表出を「人の伝える意図のある」表出にするためには、支援者が子どもの表出を適切に受け止め、表出に対して適切なフィードバック(反応を返す)をして、表出に意味付けをしていく必要がある。 (ウ)表出を意味付けるために大切なこと ・表出の原因を判断 ・複数回観察して評価 ・複数の目で評価 エ 結果アンケートより抜粋 (ア)満足度 非常に満足4   満足14    やや不満1     不満0                                          (イ)理解度 よく分かった4  分かった14  よく分からなかった2(→途中退出、途中から参加のため) 全くわからなかった0 (ウ)今回の研修で学んだこと(印象に残ったこと)はなんですか。 ○環境調整について ・コミュニケーションをとる上では、子どもの姿勢も大きく関わってくること。 ・意思確認の前に、子どもの意思が表出しやすい環境であるか確認すること。 ・できるコミュニケーション手段も、状況(集中できない姿勢など)によってできない、ということ。 ○コミュニケーションの発達について ・それぞれの子どものコミュニケーション段階に応じて、教師のかかわり方を変えていく必要があること。 ・聞き手効果→意図的伝達→命題伝達とコミュニケーションに段階があり、それをおさえていくとより効果的に取り組むことができる。 ・コミュニケ―ションは、その子どもによって表出の仕方が違うので、何を伝えたいのか、表情、声等にも気をつける必要がある。 (エ)今回の研修で疑問に残った(もっと知りたい)ことはなんですか。 ・重複クラスの子どもたちの事例。どう対応されているのか、知りたい。 ・子どもの表出をよく見るためのポイントについて、もっと詳しく知りたい。 ・最後のグループでの話し合いの時間のように、子どもの実態やどのような学習をどのような意図で行っているのかを話す場面があるといい。 (オ)今回の研修を受けて、取り組んでみたいことを具体的に挙げてください。 ・複数の教師の目で、子どものコミュケーションのよみとりを確認して子どもが学部の様々な人と共通してコミュニケーションをとれるような体制作り。 ・発達のステップを踏まえたかかわり方。 ・普段のコミュニケーションの様子の見方を今回の研修で学んだことを参考に細かく見てみたい。 ・サインの定着と終わりをしっかりと見据えて、取り組みたい。 ・コミュニケーションの事例を見て、この時は、この様に支援をするなど、支援のポイントを深く学んでいきたい。 オ 担当者より(アンケート結果を受けて)  今回の研修では、講義形式に加えて講義内容の視点でのビデオ視聴をしたことで、理解につながったという意見が多く挙がりました。視点を焦点化して取り組むことの良さといえます。また、普段何気なく行っているコミュニケーションを、発達の段階に分けて考えることが参考になったという意見も多く挙がりました。段階を意識することで、支援者のかかわりの根拠にもなり、かかわり方の継続や発展にもつながってくると考えられます。  読み取りの部分や具体的な対応など、実際の事例に則した内容に取り組みたいという意見も多くあり、この部分については、各学部や寄宿舎の事例研、自主的な事例検討会等で取り組んでいくことと合わせて、来年度の専門性向上研修で取り組むことも考えていく必要があります。  最後に、研修の中でもお伝えしましたが、コミュニケーションは“相互に”行われるものです。子どもたちの発信の読み取り(受信)、子どもたちに伝わる発信の仕方を意識して、2学期からの指導・支援に活かして頂ければと思います。 カ 参考文献 ・『広島県立福山特別支援学校 自立活動ガイドブック 第6版 〜肢体不自由、重度・重複障害教育の指導について〜』 2017年 ・『新しい自立活動の実践ハンドブック』 社会福祉法人全国心身障害児福祉財団 2011年 ・『コミュニケーション支援の世界 発達とインリアルの視点を取り入れて』 坂口しおり ジアース教育新社 2006年 (2)ICTを活用した重複障がい教育 ア ICTを「活用」すること(講義形式)  「ICTは何の略?」  ・・・コミュニケーションのためのツールであることに加えて、「(I)いつも(C)ちょっとで(T)トライできる」と捉えるという視点を紹介した。  「魔法のプロジェクト」  ・・・参考文献をもとに、事例とアプリ「明るく大きく」「Simple Mind+」「Drop Talk HD」を紹介し、どのような使い方ができるかについて説明した。 イ 重複障がい教育での先進事例(紹介と実演) ・視線入力(紹介のみ) ・アクセシビリティ(スイッチコントロールとアクセスガイドについて)  ・・・実演では、校内のタブレットを用いてスイッチコントロールでの操作方法の実演とクセスガイドの設定方法について実技を行った。 ウ グループ協議  協議のテーマを「盲学校でICTを活用するために必要なもの・こと」とし、4〜5人のグループに分かれて行った。協議した内容を整理したものを以下に示す。 エ 結果(アンケートより抜粋) (ア)満足度 非常に満足3     満足11     やや不満1   不満0    (イ)理解度 よく分かった4  分かった10  よく分からなかった1   全くわからなかった0    (ウ)今回の研修で学んだこと(印象に残ったこと)はなんですか。 〇講義・事例紹介から ・さまざまなアプリの紹介があり、今まで知らなかった便利な機能を知ることができた。(3) ・生徒のニーズに応じたアプリを使用することが大切なこと(2) ・情報やスキルを持っていると、手立てとしてとても広がるということ ・ICTはあくまでもツールであって、本質を知らないといけないこと。 ・ICTを適切に活用することで、子どもたちが授業に意欲を持ったり、主体的になったりすることに繋がると改めて分かった。 ・これからはICTを身近で有効な手段として積極的に活用していくことが必要。 〇グループ討議から ・グループ討議の中で、学校のネット環境の不十分さの意見が出た。日頃から感じていることなので、速く整備されることを希望している。 〇その他 ・職員間でも知識の差が大きく、「勉強していかなければ!」と思った。 (エ)今回の研修で疑問に残った(もっと知りたい)ことはなんですか。 ・視覚障がい教育や重複障がい教育での事例について知りたい ・機器や操作について知りたい ・本校のICT環境について (オ)今回の研修を受けて、取り組んでみたいことを具体的に挙げてください。 ・授業での活用、知識の習得・活用 オ 担当者より(アンケート結果を受けて)  ICTを「活用」するためには、「子どもの実態把握から出発すること」「そもそもどんな機器があり、どんな使い方をするのかを知っていること」など、基本となる部分について知ることができたでしょうか。短い時間での研修では、不足している部分もあると思うので、ぜひ自主的に調べたり、聞いたりしてほしいと思います。その足がかりになる研修となるように立案しました。 カ 参考文献 ・『総合教育技術11月号増刊 新学習指導要領時代の間違えないICT』 小笠原喜一/編集 小学館/発行 2017年10月 ・『特別支援教育ですぐに役立つ!ICT活用法〜ソフトバンクによるモバイル端末活用研究「魔法のプロジェクト」の選りすぐり実践27〜』佐藤里美/監修 学研プラス/発行 2018年5月