進路便り  第4号 令和4年(2022年)2月22日発行 熊本県立盲学校 進路指導部                     2020年3月に本校高等部普通科を卒業され、身体障害者ソフトウェア開発訓練センターに進学された藤岡まいさんが、このたび 熊本市役所と本田技研熊本の2つの就職試験に見事合格されました。  進路指導部では、藤岡さんの学生生活や就職試験の様子について、早速インタビューさせていただきました。 本号ではその内容を報告します。  ―合格おめでとうございます。まず、受験先とその職種について教えてください。 藤岡さん:熊本市役所は障害者雇用枠で事務職です。本田技研も     同じく障害者雇用枠で、正社員です。第一志望だった     本田技研に就職先を決めました。所属は総務部の渉外     ガバナンスという部署です。Web見学を含む、工場見学     の案内や、株主総会の企画などを行います。  ―通勤はどのようにされる予定ですか? 藤岡さん:会社の近くにアパートを借りる予定です。夢の一人暮らしなので、とても楽しみです。  ―楽しみですね。受験先はどのようにして決められましたか。 藤岡さん:本田技研は、周りから会社の様子を聞いたことがきっかけで、自分で調べる中で、「この会社で働いてみたい」という気持ちが強くなって決めました。熊本市役所は、学校からの勧めもあり、チャレンジしてみようという気持ちになりました。 ―就職試験の時期や内容はどうでしたか。 藤岡さん:本田技研は1次が面接で、30分くらいでした。和やかな雰囲気でリラックスして受けることができました。2次はSPIでした。熊本市役所は、筆記と面接試験でした。 ―就職試験を通して、大事だと感じたことはありますか。 藤岡さん:何よりも、自分の「見え方」を、しっかりと説明する力が大切です。会社側も、どんな配慮が必要か分かるので、安心して雇用ができます。私は、生まれた時からの弱視で、「普通の見え方」というものが分からなかったのですが、周りと話す中で自分との違いを知り、      わかりやすく説明するように心がけました。 ―大切なアドバイス、ありがとうございます。さて、2つも就職試験に合格されたということは、とても努力されましたね。 学校ではどんなことを学ばれたのですか。 藤岡さん:ソフトウェア開発訓練センターは、「デザイン」「CAD」「プログラミング」の3つのコースがあり、私は「CAD」コースを選択しました。授業は、基礎を先生方が教えてくださった後は、自分で与えられた課題制作に取り組むスタイルです。ITパスポートの資格取得も頑張りました。また、就職のためにMOSの資格も取りました。 ―見えにくさがある中での授業では、どんな合理的配慮があり ましたか。苦労はありませんでしたか? 藤岡さん:授業に関しては特に苦労は感じませんでした。プリントを拡大したものや、ポイント数の大きな文字で書かれたプリント、また、テキストデータをいただくことで対応していました。見えない時には「見えません!」とすぐに伝えることができたのも大きかったです。   ただ、少人数(10人)の中で、さらに同年代が少なく年上が多かったため、最初はやっていけるか不安でした。大丈夫でしたが(笑)。  −ここからは、盲学校高等部時代のお話を聞かせてください。ソフトウェア開発訓練センターへの進学を決めたきっかけや   受験対策はどうでしたか。 藤岡さん:私は、幼稚部から盲学校に通っていたので、卒業後は健常者の中でもまれてみたい、と思っていました。最初は、大学で心理学を学びたいと思っていましたが、ずいぶん悩む中で、就職して自立したいという気持ちが強くなり今の学校に決めました。高校2年から国語、数学、英語の課外を受け、進研模試も受験していました。進研模試は本当にためになったと思っています。また、課外では、「これくらいの問題ができなければ、進学は厳しい」と、厳しい言葉を言われることもありました。それが悔しくて、夜中の2時まで予習をした日も多かったです。 −廊下で見かけるといつもニコニコ挨拶してくれた藤岡さんが、そんなに遅くまで勉強していたとは知りませんでした。 藤岡さん:やっぱり、「悔しい」「負けたくない」という気持ちが大きかったことが良かったと思います。「あの時あれだけ頑張ったから大丈夫」と、自分を信じることができました。私は、中学部までは少人数学級だったので、高等部に入って同級生が増え、人との関わり方、自分の言葉や振る舞いで相手がどう感じるかを知ることができました。いろいろな経験を積むことは本当に大事だと思っています。私は、アンサンブル部に入っていたおかげで、全国大会まで行くことができたし、厳しい練習を通してメンタルも強くなったと思います。小学部の頃の、他の小学校との交流も、あの頃はきつかったけれど、今はやって良かったと思っています。  ―最後に、後輩たちへのメッセージをお願いします。 藤岡さん:なかなかうまくいかない時も、気分転換で気持ちを切り替えて、うまくいった時のことを思い出して頑張ってほしいです。目標があれば、頑張れると思います!      そして、授業は大事!授業で寝ない!(笑)  ―「目標があれば頑張れる」大切な言葉ですね。ぜひ伝えます!卒業試験前の忙しい時期に、本当にありがとうございました。 【インタビューを終えて】  爽やかな笑顔ではきはきと話をされる藤岡さん。その笑顔の裏側には、「絶対負けたくない」という強い心と、努力を続けてやり抜く力、そしてチャレンジ精神があることを感じました。また、自分の「見え方」やしてほしい配慮について正確に周りに伝える力は、盲学校生徒全てにとって大切です。皆さんもぜひ時間を作り自分の見え方や必要な配慮について整理してみてください。 【用語の解説】 SPI・・・多くの会社で入社試験に使われている適性検査。働く上で必要な知的能力を測る検査と、日頃の生活習慣や考え方に関する質問を通して、仕事への適性を把握する検査があります。 進研模試・・・大学受験のための民間模擬試験。この模試の志望校への合格可能性判定を参考にする受験生が多いです。 ITパスポート・・・経済産業省が認定する情報処理分野の国家試験。パソコンを使った情報技術の基本的な知識を見るもので、就職に有利とされています。 MOS・・・ワードやエクセル、パワーポイントなどのパソコンの基礎知識をみる資格。就職に有利とされています。