進路便り 第3号 令和4年(2022年)1月28日発行 熊本県立盲学校 進路指導部                      本校では昨年11月12日(金)に、中学部・普通科・理療科生徒を対象として「先輩を囲む会」を開催しました。本号では、講話の概略及び、会の終了後に職員が講師に聴取した内容を簡単にまとめてご紹介します。 【講師紹介】 ○佐藤 実幸 氏(平成26年度本校専攻科理療科卒業)   子供に関わる仕事をしたいという思いから看護師を目指しておられましたが、見えづらさによる学習の困難さ、支援が受けられない状況等があり、やむを得ず本校の理療科に進路変更をされました。資格取得後、熊本市内のフィット治療院で勤務された後、現在は菊池市の「境接骨院」でマッサージ師として働いておられます。 ○松永 惇希 氏(令和元年度本校専攻科理療科卒業)   急激な視力低下により本校普通科に入学された頃は障害と向き合うことが難しかったようですが、陸上競技に打ち込む中で、徐々に将来を考えられるようになったそうです。本校理療科で資格を取り、現在は「社会福祉法人熊本菊寿会 デイサービスセンターさわらび」でマッサージ師として働いておられます。 【佐藤先生のお話】  理療科では看護学校とは異なり、拡大資料、録音教材、電子書籍の配布を受けられたので、通学中等、場所を選ばずに学習ができた。また、暗記科目は、お風呂で唱えるなど、しゃべることが有用であることも知った。しかし、学習内容は非常に難しく、子育てや家事・エステ店でのアルバイト等との両立も必要であったため、国試3科一発合格がかなわず数度の受験をすることになった。国試のレベルを侮らず、できる限り学習に力を入れたほうが良いと思う。  フィット治療院では、30分や60分など、決められた時間の中で、診察から治療までを自己の判断で行う形式で働いていた。 また、オプションでオイルマッサージを行うこともあった。この時には、学校で学んだあん摩や医学の知識、エステ店での経験がとても役立った。  境接骨院では、保険診療で柔道整復師の院長が診察した後、支持された患部のマッサージを15分程度で行っている。一人にかけられる時間は少なく、施術の自由度は低いが、いろいろな症例に対する治療ができるので、良い経験が積めていると感じている。  治療院・整骨院の職務内容はまったく異なるものだが、共通しているのは、「コミュニケーション力が重要」ということである。勉強も大事だが、それだけでは患者との関係を気づくことは難しい。その意味で、在学中からいろいろな経験を積んでおくことをお勧めする。  卒業後もベビーマッサージの資格を取得するなど、自分なりに努力を続けている。今後は、治療院を開業し小児鍼法を取り入れて子供たちの成長に関われる仕事をしていくことが目標である。 【松永先生のお話】  普段の授業では点字及び録音教材を使用していた。また、パソコンにてまとめノートを作成したり、頻出問題領域の確認、過去問による知識の整理を行って国家試験に備えた。学習は決して楽ではないので日々の積み重ねが重要だと思う。特に解剖学には力を入れた方が良い。  また、触診技術、マナー、言葉遣いに関する知識を育むことが重要だと感じている。臨床実習はこれらの力を育める場なので、患者さんと積極的に関わり、関係性を気づく練習をさせてもらいながら、様々な治療法を試して力を付けると良いと思う。  デイサービスでは、高齢者に多い運動器疾患や神経系疾患、脳血管障害、※1頸下がり症候群等の多様な疾患に対して疼痛緩和、可動域改善、筋力強化、心身のリラックスを目的に施術を行っている。また、技術向上のために、施設内研修会に参加して脳卒中後の失語症についての知識を深めたり、※2アスター、※3関節モビリゼーション、※4PNF、※5マイオセラピー等の手技をPT(理学療法士)から学ぶなどの活動を展開している。  自身の障がいに起因する確認不足で利用者の転倒事故が発生したことがあった。こうした体験から、周囲に対する細かな配慮の大切さを学んだ。また、自分には何ができないのか、何が難しいのか等、こちらから伝えることで職場の視覚障がいに対する理解や支援が得られるようになるので、自分の状況を伝えられる力を付けておくことも大切だと感じている。  ともかく、学生のうちに多くのことにチャレンジしてほしい、勉強をしてほしいということが、私の伝えたい気持ちである。今後も多くの知識を身につけながら成長したいと考えている。 【理療科の皆さんのための用語解説】 ※1頸下がり症候群:頸の後ろの筋(僧帽筋や板状筋等)の筋力低下で発生する状態。 ※2アスター(ASTR):特定の軟部組織(筋、筋膜、靭帯、腱)にピンポイントに圧迫を加え、固定しながら関節の運動を行なうことで、効果的なストレッチを施す手技。 ※3関節モビリゼーション:関節部の疼痛や可動域制限の改善を目的に適度な振幅で関節を反復操作する手技。 ※4PNF:筋肉を伸ばしながら、神経を刺激して、凝り固まった筋肉をゆるめる手技。 ※5マイオセラピー:からだの深部のこりをほぐし、神経を修復する療法。