本号では10月11日(金)に行われた「高等部進路学習会(先輩を囲む会)」での講和の内容をお伝えします。 【講師】  井 珠美 先生(平成24年度卒業) 【経歴】  平成12年 本校高等部普通科入学  平成15年 尚絅短期大学幼児教育科入学 (保育士資格取得)  平成17年 保育園就職 平成22年 本校専攻科理療科入学 (あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師資格取得)  平成24年 訪問マッサージ就職  平成27年 治療院開業 【講話内容】  中学3年生の時に夜盲と視野狭窄、視力低下が進行する網膜色素変性症と診断を受けた。主治医の勧めもあって盲学校高等部の普通科に入学することになった。盲学校生活の中で、幼稚部の先生方の子供たちに接する姿を見て、子供に関わる仕事に就きたいと思うようになった。  尚絅短大幼児教育科の推薦入試のときは、盲学校の先生方の働きかけもあり、試験問題の文字拡大の配慮がなされ無事に入学することができた。 入学後は大学の先生方に自らの障害の状況を説明し資料の拡大や板書の配慮を願い出るなど、学習環境を整えるために自ら働きかけていた。  卒業後、南区の保育園で働き始め、その時の失敗談として、夜盲のため暗くなると保護者の顔が分かりづらく、迎えが来たことを別の子供に間違って伝えてしまうことがあり、子供たちの安全と信頼を損なうことになり責任を果たすことが難しいと感じた。そのため、明るい環境であれば責任を持って働くことができることを園長に理解してもらい、シフトの配慮をしてもらうことができ、その後は何事もなく働くことができた。  結婚と出産を理由に保育園を一度退職することになった。しばらくして仕事復帰をしようとしたが、病気が進行し保育士をするのは 難しいと考え、盲学校の理療科でマッサージの資格を取ろうと決意した。  理療科での学習は難しく、模擬試験で成績が伸び悩んでいたため、卒業後の開業準備ができなかったことや治療技術を高めることができなかったことが悔やまれた。  理療科卒業後は訪問マッサージの会社で3年ほど働くこととなり、多くの先輩方と関わる中で学校では習わないマッサージの技術や治療院開業のノウハウを学んだ。  現在は、実家の産山村で治療院を開業している。あん摩による治療が中心で鍼とオイルマッサージも行っている。 近隣の農業関係者や高齢者の比較的元気な患者さんが多く、施術時間は60分を基本としており、一日平均3・4人の施術を行っている。開業当初はカルテを手書きで行っていたが、視力低下によりパソコンで音声ソフトを使ってカルテを記録するようになった。 患者さんが治療効果を感じ継続して治療を受けに来てくれていることがやりがいや励みになっている。  現在のマッサージの仕事は充実していて楽しくやっている。やりたいことであれば、つらいことでも乗り越えられるので夢を叶えて欲しい。 【終わりに】  仕事をしていく場合、障がいの有無に関係なくあらゆる場面において誰しもなにがしかの配慮をしてもらって仕事をしている。障がい者本人の要望によって可能な限り配慮がなされても仕事が全うできず責任を果たせない状況があるのであれば、自分の我が儘を押し通さず潔く身を引くことも必要なのではないか。  夢に向かって頑張ることは大切なことであり、将来どのような仕事をしたいのか、将来どうありたいのか、明確な志があれば夢を叶えることができる。しかし、夢が実現しなかったり、障がいが進行したときに、どう自分の気持ちに折り合いを付けてどんな仕事をして生きていくのか、覚悟を決めなければ次に進むことは難しいのではないか。  あん摩マッサージ指圧師、鍼師、灸師は、密接に人と関わり病気を治療することから、高い技術と人間性が求められる仕事である。誰もができる仕事ではないが、見えなくてもできる仕事であり、患者の病苦を少しでも直すために努力できる人であるのであれば、やりがいを持ってできる仕事である。