徒然雑記帖

大学入試が変わる

 

 本日から県立学校の前期(特色)選抜の出願が始まりました。前期選抜は、本校の各科に関する学習に興味・関心があり、意欲的積極的な志望動機を持つ受験生の中から、その多様な能力や適性、意欲や関心、努力の成果などの優れた面を積極的に評価して選抜するものです。願書を託された中学校の先生方が次々と手続きに訪れ、受験シーズンが本格化した感がします。

 本校を目指す受験生の皆さん、体調に気をつけて頑張ってください。

 

 ところで、昨日、一昨日と「大学入試センター試験」が実施されました。全国で50万人余りが受験したとあって、テレビ等でも大変大きく報じられました。その中で必ず言い添えられたことが、「センター試験は来年2020年1月実施(2021年度入学者向け入試)を最後に廃止され、2021年からは、『大学入学共通テスト』(新テスト)が実施される」というものでした。

 今の高校1年生以下は、この新テストを受験することになります。

 

 本校生の大半が就職を選択しており、進学では国公立系でも工業高校枠の推薦入学制度を活用している者がほとんどで、今年度はセンター試験を受験した生徒はいませんでした。しかし、昨年度、一昨年度それぞれ1人ずつではありましたが、受験生がいたことは事実です。「入試制度が変わる」という報に接し、高校1年生やその保護者、中には中学3年生やその保護者の皆様の中にも、漠然とした不安をお持ちになられた方も多いのではないかと案じております。

 今日は、大学入試の試験内容等がどう変わるのか、本校としてどう対応しようとしているのかを簡単にご説明をします。

 

 「グローバル化や第4次産業革命に対応しうる人材を育成するため、新しい学力評価制度・大学入試制度の設立が必要である」ということが、この入試改革の背景にあります。文部科学省HP内の「大学入学者選抜改革について」では、そのような人材育成のためには、「学力の3要素」である①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度、の3つを育成・評価することが重要であると記されています。

 では、具体的に何がどう変わるのか。センター試験にはなくて、新テスト(共通テスト)に新たに導入・変更されるものが3つあります。1つ目が「記述式問題」、2つ目が民間の検定試験を活用した英語の「4技能評価」、3つ目は提出書類に「志願者本人の記載する資料」等が加わるなど「調査書等の見直し」です。

 

 まず1つ目です。現行の「大学入試センター試験」は、正解を選択肢の中から選ぶだけの出題形式ですが、新テストでは記述式の問題も加わることになります。このことで、「自らの力で考えをまとめさせたり、相手が理解できるよう根拠に基づいて論述させたりすることで、思考力・判断力・表現力が評価できる」としています。また、高校や中学校では「主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善」が促され、大学では高校で身につけた「思考力・判断力・表現力」を前提とした質の高い教育の展開が期待できるとされています。

 

 2つ目の英語の「4技能評価」。これは現行「大学入試センター試験」で実施されている「読む」「聞く」テストに、「書く」「話す」技能の評価を加えようというものです。急速に進むグローバル化へ対応するために、コミュニケーション重視の英語教育が一層求められていることが背景にあるわけですが、この「書く」「話す」テストのノウハウは、民間の検定試験実施会社の開発が相当進んでいるので、それを活用しようというものです。ケンブリッジ英語検定、TOEFL iBT、TOEIC(L&R・S&W)、実用英語技能検定(英検)などが共通テストの「英語」の試験として、成績提供システムに参加することが決定しています。受験生は、高校3年生以降の4月~12月の間に受験した2回までの検定試験の結果を共通テストの成績として、大学に提供することになります。

 

 3つ目の「調査書等の見直し」。これは、「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価するため、高校生一人一人が積み上げてきた大学入学前の教育活動を評価することを目的としています。現行の調査書は、A3見開き1枚の様式となっていますが、この制限を撤廃して、より弾力的に記載できるようにするため、2021年度入試では調査書に記載される内容量がさらに増えるほか、「志願者本人の記載する資料」の提出が求められる予定です。これは大きく、①活動報告書(「総合的な学習の時間」等において取り組んだ課題研究等、生徒会活動、部活動、ボランティア活動、資格・検定等、各種大会・コンクール等、学校の内外で意欲的に取り組んだ活動など)、②大学入学希望理由書や学習計画書(各大学の学部等の教育内容を踏まえ、入学希望理由や入学後に学びたい内容・計画、大学卒業後を見据えた目標等)からなり、志願者本人が記載するものです。

 

 この大学入学者選抜改革、記述式の導入により、これまで可能だった自己採点ができなくなります。また、50万枚を上回る答案に対してどう採点委員を確保して、採点基準のレベルを合わせるのかも気になります。マスコミも盛んに報じているように、高校、大学双方から批判を含め様々な視点から意見が噴出しているわけですが、レールは敷かれてしまいました。大学全入時代と言われる今でも、大学入試は当事者にとって一生の一大事であり、高校側はその対応が早急に求められています。

 

 御存じのとおり、大学入試センターは「大学入学プレテスト」と称して試行テストを平成29年と30年の2回実施し、思考力・判断力・表現力を問う記述式の問題とは一体どういう問題なのか、そのイメージを明らかにしました。本校の先生方にも問題の分析と、日頃の授業への反映をお願いしたところです。

 また、教務部を中心に「主体的・対話的で深い学びに向けた授業改善」の視点を持った研究授業を企画し、思考力・判断力・表現力の育成を目指すとともに、記述式の問題への対応も意識した授業を展開しています。例えば、英語科の授業では、工業科目とも協働し、生徒の発信力を高め、英語を「書く」「話す」活動にアクティブに取り組めるよう、研究・実践を進めています。

 さらに、「志願者本人の記載する資料」のうち①活動報告書については、今年度から各行事や学期の終わりごとに生徒たちに記述式の振り返りを求め、ポートフォリオ(学習の過程や成果などの記録を、計画的にファイル等にためておくこと)として記録を残すことを始めたところです。

 これらの取組はまだ緒に就いたばかりですが、県内の他の工業系高校とも情報交換を密にしながら、新しい入試制度に向かって用意周到に対応するつもりです。

 

「志願者本人の記載する資料」のうち、①活動報告書は、文字通り生徒が活動したことについて記述します。つまり、活動した生徒だけが書けることになります。ボランティアを積極的にしたり、資格試験に意欲的にチャレンジしたりすればするほど充実した報告書が書けるわけです。この報告書が提出できると、入試の際に加点の対象になることが十分に考えられます。また、本校では全員が課題研究に取り組みますが、研究の中心的なリーダーとなって取り組んだ生徒と、先生やリーダーに指示されたことだけに取り組んだ生徒とでは報告書の内容に違いが出てくることは明らかです。高校生活をより主体的に送り、充実させることで報告書の内容も豊かで充実してくることでしょう。

 ②大学入学希望理由書や学習計画書は、大学に入って自分が何をどのように学びたいのかを詳細に記述します。大学側はこれまで学力で受験生をふるい落としていました。しかし、現在「大学全入時代」と言われるように、大学の定員数と大学進学希望者数に差がありません。受験生はより好みさえしなければどこかの大学には入学できます。そのような中、学ぶ目的意識が乏しい学生が入学後に伸び悩むことを目の当たりにし、苦慮している大学側としては、「入学後も主体的に学んでいく学生を取りたい」という意識に傾くのは当然であり、「大学で学べること」と「生徒が学びたいこと」のマッチングがより重視されるようになっているわけです。

 本校では、大学進学だけではなく、就職に関しても、将来どのような仕事をしたいのか、その仕事をするために自分に足りないものは何かを考えさせることにも力を入れています。

 

                                           【校長】