笑う 平成29年3月

     3月1日に卒業式を行いました。体育館が被災して使用できない状況ですので、3月1日に実施できるのか心配しましたが、熊本県立劇場コンサートホールをお借りして無事3年生を送り出すことができました。卒業式の会場の手配や準備などに関係していただいた方々のおかげです。皆さんにお礼を申し上げます。
  当日、卒業生諸君の表情は皆さん晴れやかでした。この1年間を乗り切ったという安堵感もあったのではないでしょうか。卒業式は終わりましたが、上級学校進学への挑戦が今も続いています。希望する進路が達成できるよう最後まで努力してほしいと思います。
  以下に、卒業式の式辞の一部を掲載します。 

 式辞
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 ただ今、卒業証書を授与した卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんは、「自主積極・廉恥自尊・礼節協調」の三綱領をよりどころとして、「学力の向上」はもとより、人としての「人格の陶冶」に向けて、日常の勉学や部活動、並びに生徒会活動を中心に、自己研鑽の日々を積み重ね、三年間の教育課程を無事修了されました。
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 平成二十八年度は私たちのほとんどが、想定もしていなかったような天災に見舞われました。自然の力がとても大きなものであることを身をもって経験しました。地震の震源に近いところでは被害が非常に大きく建物などの復旧にも時間がかかっています。本校も施設に大きな被害を受け、体育館での卒業式はかないませんでしたが、このように熊本県立劇場をお借りして、本日、卒業式をできますことは関係された方々のご尽力によるものであります。心から感謝申し上げます。
  地震後、混乱している中で皆さんは自宅または避難所などから、避難所やがれきを撤去している所へ駆けつけ、自ら進んで積極的に手伝いをしてくれました。また、家庭での後片付けにも積極的に関わってくれたと聞いています。どのようにしたら自分の力を最大限発揮できるのか、その場の状況を自ら判断して行動するのは難しい場合がありますが、皆さんはそれぞれが判断し行動に移してくれました。本校綱領の「自主積極」の姿勢が現れた行動でありました。
  さて、本校は文部科学省からスーパー・サイエンス・ハイスクールの指定を受け、皆さんが主体的に考え行動する力を身につけることができるような教育に取り組んできました。その一つが、理数科では課題研究スーパーサイエンスであり、美術科、普通科ではテーマ研究です。研究の成果は、合同の報告会という形にし、皆さん全員が聞くことができるようにしました。研究の内容が理科系、文化系限らず様々な視点から物事を考えてみることはとても重要なことだと考えます。
  明治から大正にかけて活躍した物理学者に寺田寅彦がいます。寺田寅彦は、一八九六年(明治二九年)に第五高等学校に入学します。そこで英語教師の夏目漱石、物理学教師の田丸卓郎と出会い、両者から大きな影響を受けその後、科学と文学の両方を志すこととなります。寺田寅彦は文筆活動においても有名であり、「知と疑い」という随筆の中で、次のように書いています。
 「疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う。疑いは知の基である。・・よく疑う者はよく知る人である。・・寺院の懸灯の動揺するを見て驚き怪しんだ子供が、イタリアピサに一人あったので、振り子の法則が世に出た。りんごの落ちるのを怪しむ人があったので、万有引力の法則は宇宙の万物を一つの糸につないだというのは、人のよく言う話である。・・学校の教科書を鵜呑みにし、先人の研究をその孫引きによって知り、さらに疑うことなくしてこれを知り博学多才となるものは、かくのごとき仕事はしとげられないのである。」寅彦は、疑うからこそ、そこに新たな学びがあり、疑うというのは学びの上で重要なものなのだと言っています。本校で経験した課題研究やテーマ研究での課題の発見や仮説の設定をするという考え方は、これから皆さんが社会に出て、答えのないような問題に直面したとき、解決していくうえで役に立つものになると思います。また、寺田は自然科学者でありながら、文学などの自然科学以外のことにも造詣が深く、随筆などを通して科学と文学といった学問領域の融合にも試みています。文系と理系の知識を統合させ、新たな知見を得る学際的な視点での考え方も、これからの社会で生活していくうえでは必要なことであると考えます。約百年前に生きた寺田寅彦は、今の社会を予見していたのかもしれません。
  卒業生の皆さん、これから皆さんが加わっていく社会は、変化が激しく、常に新しい未知の課題に、試行錯誤しながら対応していくことが求められます。そのような社会ですから、当然人生の道のりには、幾度となく壁にぶつかることになると思われます。しかし、その壁を乗り越えるため、全力で取り組んでください。そのためには、一歩を踏み出すことから始まります。
  日本経済団体連合会の副会長を務めた鈴木敏文さんは、「未来に向かって敷かれたレールはない。道は自分でつくるものである。」と述べています。さらに鈴木さんは「レールとは、ふと振り返った時に、自分が歩んできた結果として敷かれているものである。未来に向かって踏み出そうとすれば、どんな方向にも新しく踏み出すことこともできれば自分を変えることもできる。」と述べています(「わがセブン秘録」より)。皆さんが、これまで得た経験を基礎として、一歩先の未来像を描き、それを実現させるために豊かな発想力を活かして、未来に向かって一歩を踏み出してください。皆さんのこれからの活躍を期待しています。
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 それでは卒業生の皆さん、皆さんの前途が洋々たるものであることを信じ、将来のご多幸をお祈りして、式辞とします。