安永蕗子歌碑
 この一首は、親鳥に飛ぶことを習った鳥が、何度もはばたきながら、やがて自い羽をのびのびと伸ばし開いて、大空へ翔びたってゆく、情景を歌った短歌である。
 中国の名著に「論語」いう一冊がある。紀元前に書かれたものであるが、師である孔子が弟子である生徒たちに教えた言葉、また弟子たちが孔子先生の言葉を伝えて書いた一冊である。その第一章、第一番の言葉に、孔子の言葉がある。
 孔子は言われた。「学んで時にこれを習う」と。先生から学んだことは、その日から、時間のある限り復習することだ。復習によって習ったことがさらにはっきり解って、それは大変楽しいことだと。「習」という字は、羽の下に白、と書く。若い白い羽は、飛び方を教えてもらったひな鳥は、何度も羽ばたきをして飛ぶことを練習する。そして飛びたつ時のうれしさはすばらしい。人も、若い人も、みな鳥の羽ばたきのように、習ったことを何度もくりかえし考えて、そして習いおぼえた飛び方で大空へ向かって飛んでいくという、喜びを抱く、というのである。学校はそのための場所である。若い鳥はいきいきと羽をひらいて飛ぶことを学ぶことだ。
 一首はそうした若い羽の練習から学問ははじまるということだ。

 ☆安永蕗子(1920~2012)
   県立第一高等女学校卒。歌人。宮中歌会始選者。熊本県近代文化功労者顕彰。熊本市名誉市民。